雪の降る日に……

たから聖

第1話 受験当日に雪は降る。

オレ、山田涼。明日には合否が決まってしまうかも知れない。


そう、、、受験生だ。今まで出来るだけの事は沢山してきた。

体調にも気を遣いながらも万全を尽くしてきたのだ。


みなぎる自信を俺は持て余しながらも寝床に着いた。



あくる朝……辺り一面、雪景色だった。だが俺は焦らない。

(こんな事もあるとおもってたんだよな。)


時間に余裕を持って、勉強した所も……念入りにテキストに目を通す。栄養ドリンクをグイッと

飲み干し、カイロを手に家を早めに出た。



余りこちらの地方は…雪が降らない。その為、交通機関が遅れ気味だ。それも想定内だ。


(大丈夫だ。オレは充分やって来た。この日の為に……春が来たら、東大合格して人生を満喫するんだ。)



教科書に目を通しながらも、俺はバスが来る時間を待っていた。

頭には雪が積もるが、気にはならなかった。


だんだんと雪の勢いが凄くなってきた。雲行きが怪しい。


そんな時……ふと辺りを見回すと、お婆さんが近くの踏切内で

右往左往していた。


少しだけ様子を見ていたが……

『あ!!』

俺は思わず声をあげた……。

お婆さんが踏切内から出られなくなっているではないか?!



『危ない!!!』

俺は思わず走り出していた!

教科書をほかって…

お婆さんに駆け寄る俺……


電車が迫ってくる!間に合うか?


お婆さんが俺の姿を見るなり

必死に訴えかけてきた。

『お婆さん!!!』

抱きかかえて踏切から外へ慌てて移動すると、


俺は怖くなり腰が抜けた!



お婆さんは…俺に何度も何度も

頭を下げるのだが…

俺は受験の事を考えた。しまった!時間通りに会場に着けない!



だが……怪我をしたお婆さんを

俺はほっておけなかった。


仕方なく雪の降る中…

お婆さんを励ましながら病院までおぶって行くと、


お婆さんの関係者が来るまで、

ここに居て欲しい。と言われた。


『あ、、あのッ……』

(今日、受験2日目なんですけど…)

と言いかけたが、


恩着せがましいとお婆さんに

思わせてはダメだ!と口をつぐんだ。


腕時計をチラチラ見ながらも、

お婆さんと、話しをするが…内容が入って来ない。


焦りの余り、背中に嫌な汗がつたう。

(どうしたら?どうしよう?)

そんな思いばかりが頭の中を駆け巡る。



ようやく、お婆さんのご家族がいらした。皆が俺に頭を下げるが、


『あの、何と申し上げたら良いのか…。ありがとうございます!』



素敵な笑顔だ。俺はぺこりと頭を下げて……

『ちょっと俺…急ぎの用が!!』



そう言いつつも、駆け足をしだした。暖かい病院内とはに、とても凍てつく雪化粧に俺は半ば諦めかけていた。



会場へとタクシーを止め、いざと言う時の為に取っておいた

を全て使った。



時間を見る……。タクシーの運転手さんに、少し急いで!!と

頼むのだが、、、。あいにくの渋滞だ。


俺は両手を合わせて神頼みした。



(頼む!!どうか!今日最終日の為に頑張ってきたんだ!!!)

少しづつ少しづつ、タクシーは

進む……。



『ダメだ!!間に合わない!!』

俺はタクシーの運転手に

『釣りは要らない!!』と金を出して、また寒空の中を走り続けた。



足を滑りそうになりながらも、

やっとの思いで会場へ着いた。


時計に目をやる……

(ヤバい!!終わってしまう!)



涙が止まらない。

悔しくて悔しくて。人助けしたのをこんなにも後悔した事は無かった。だが……



俺は教室を探して、扉を開ける。


先生が…いた……。


先生は咳払いをしている。俺は

頭を下げる。


席が……席が…!!分からない!



どうすれば??



その時!!!後ろから肩を叩かれた!

フッと見ると……。

病院から駆け付けた看護師さん達だった。



俺は目を丸くして…理由を聞き返そうとしたが

『大丈夫!!任せて!』

と小声で看護師は言うのであった。



俺が……ポカーんと一部始終を見つめていると……


先程の咳払いした先生の表情が

明るくなった。


その先生に手招きをされた。





俺は他の受験生の邪魔にならないように、静かに静かに

進んでいく。すると、、、


先生は……思いがけない一言を

放つのだった。



『試験には、ギリギリだ。今から120分しか無いが?イケるか?』



俺は思わず頭を下げて……

『あざっす!!』と声が大きくなって注目を浴びてしまった。




席を用意されて、

俺は今まで頑張ってきた内容を

頭に思い浮かべながらも

問題を次々と解いていった。



終了間際……。



えんぴつが焦る。字が汚いが…

かろうじて読める!!




《イケる!!!バッチリだ!》

俺は確信を持った……。


見直している途中で終了の合図が鳴った。



俺は感無量な感情を抱きつつも

神に感謝していた。




やるだけやったぞ!!イケる!



その後……合格発表の日。

また、お婆さんと遭遇したが。


お婆さんは…舌をペロっと出しながらも……オレに近づいて来た。




お婆さんは話しを始める。

『ハハハ。実はあの時うっかりしちゃってね。ホントにありがとうございます。助かったよ。家族には怒られたけど、今時の若い子は立派だね?』


俺はそうでもないっす。と返事すると……



お婆さんは、続けた。


『わたしゃ、東大の講師をしておってな??女性初の講師なんじゃ。ハハハ。あんたさん東大受験されたな?毎年、わたしゃ。受験生の様子を見に行くんじゃ。だが……あの日は。危なかったのぉ。』



死ぬかと思った。と……



お互い顔を見合わせながらも

大笑いをした。


『山田涼くん。貴方の勇気を覚えておくよ?これからよろしく!』




俺は思わず奇跡が起きたんだと実感したのだ。



これからのキャンパスライフは、

充実したモノになるだろう。



春が来たら、お婆さん講師に

お団子の美味しい店を教えて、、

たくさん学びを深めていこう!



そう未来から……

幸せの鐘が鳴った様な気がした。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪の降る日に…… たから聖 @08061012

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ