第8話 学園紹介2
「進路のことならお任せの資料室」
1階の案内が終わり、
夜六達は2階に上がる。
放課後すぐの時間帯ともあって、
ガヤガヤと人が行き交う。
資料室にはたくさんの企業の求人情報や
大学、専門学校の資料が
ビッシリと棚に並んでいる。
パソコンも3台置いてあるし、
各々が仕切ってあって冷暖房も完備。
ここなら調べ物をするには
最適な空間だろう。
「何かとよく来る職員室」
職員室には2箇所出入口があり、
どちらもよく人が出入りする。
部室のカギを取りに来た生徒や、
提出物を出しに来た生徒、
生徒を連れて補習に向かう先生など、
色々な人がいて、
とても学校らしい雰囲気が流れている。
「委員会や行事の話し合いの時に
生徒と先生が集まる会議室」
今は誰も使っていないのか、
会議室の電気は消えており、
その中を見ることはできないが、
それなりの広さはあるし
会議事以外にも、
何かの説明会や配り物をする際に
使われることもあるため、
それなりに頻繁に使われているらしい。
「今日、情報の授業で使ったPC室」
クラスメイトに連れられて、
初めて来た移動教室の部屋。
一人一台のパソコンが与えられ、
Excelなどの授業を受ける。
夜六と夏八はExcel以上に
ハッキングもお手の物の為、
席の位置が先生から遠い夜六は
授業そっちのけで
ハッキングをしていた。
2階の案内はPC室で終わり、
さらに階段を上がって3階。
生物室や物理実験室、
第2PC室などの特別教室がある。
「水都さんお待ちかね、
日本の数ある学校の中でも
トップクラスの規模を誇る、
劉院学園自慢の図書室」
そして最後の4階に上がり、
最後の案内になる。
階段とトイレを除くほぼ全てが
図書室となっている4階。
扉を開けて中に入ると、
本の紙の匂いが鼻を刺激して、
圧倒的な本の多さに目を見張る。
「わぁぁ……」
分かりやすく瞳を輝かせ、
夏八は感嘆の声を上げる。
胸の前で手の指を絡め、
初めてお花畑に来た少女のように
夏八は軽くステップを踏む。
……だが、これは演技である。
夏八は本来、本を好かない。
読んでいて退屈なのだそうだ。
任務のために情報を集める際なら
嫌々に書類に目を通すこともあるが、
夜六や他の仲間がいる時は
基本的に任せ切りだ。
教室で誤魔化すように
図書室という単語を言ってしまった手前、
怪しまれないように
こういった演技をしているのだ。
それにしても、大根芝居にもほどがある。
少しは後輩の『蜂』から演技の
勉強でもしていればいいのに。
「校舎の中で俺らが使う教室は以上だ。
あと、体育館とか食堂とかあるけど
わざわざ案内するまでもないだろう?
まぁ、分からないことがあれば、
いつでも気軽に聞いてくれな。
きちんと教えるから。な?皆?」
「もちろんだよ!」
「なんなら、今から俺のとこの部活を
見て来てくれてもいいだぜ?」
難波が振り返って呼びかけると、
他の生徒達は笑顔で答える。
改めて、このクラスメイト達は
素直でいい奴ばかりだなと、
夜六は思っていたが、
夏八は完全に自分の世界に入り
クラスメイト達の言葉を
聞いていない様子だ。
──もちろん、演技である。
「じゃあ、俺と水都が困ったら、
その時はまたよろしく頼もうか。
俺は水都が満足するまで残るから、
皆はもう帰っていいぞ。
今日は本当にありがとう」
いつの間にか図書室の奥の方まで
足を進めていた夏八を遠目で見て、
夜六はクラスメイトに告げる。
最初は自分達も残るとか言っていたが、
夜六がいいからと言うと
素直に従って帰っていった。
しっかりとクラスメイト達が
階段を降りていくのを確認して、
夜六は夏八のところに戻る。
「…この私が本好きの演技だなんて、
屈辱以外の言葉が見当たらないわ……」
本棚が並んでいる奥の方で、
夏八は窓ガラスに額をぶつけて
ブツブツと嘆いていた。
一流のスパイたるもの、
演技をするくらい
普通は何とも思わないのだが、
夏八にはやりたくない演技がある。
それが、『本当は嫌いな物を
あたかも好きであるように見せる演技』だ。
自分が嫌いな食べ物を
無理矢理食べさせられている、
という訳でもないので、
別にいいのではないかと
夜六は思うのだが、
嫌いな物は嫌いらしい。
夏八らしい話だ。
「怪しまれてないし、
本好きキャラなんて
珍しくともないんだから
別に気にするなよ」
夜六は後ろから声をかける。
夜六にとっては慰めの言葉だったのだが、
逆に夏八は機嫌を悪くする。
バッと勢いよく振り返り、
ズンズンと夜六に歩み寄る。
「生きてるのか死んでるのかすら
認識されないようなあなたに
私の心は理解できないでしょうけど、
芝居が嫌なんじゃなくて、
周囲にあの人は本好きって
私は思われたくないの。
分かる?分からないでしょう?
生きてるのか死んでるのかすら
よく分からない死んだマグロの
目をした霧峰君?」
今、夏八は大事なことを2回言いました。
さて、それは何でしょう?
チックタック、チックタック。
正解は、『生きてるのか死んでるのかすら
分からないような夜六』でした。
いやいや、そんなことを
考えてるような暇はない。
夜六は目の前の面倒なことから
目を逸らす為に現実逃避をした結果、
とてもアホなことを考えていた。
しかし、すぐに冷静を取り戻して
夏八に話を振る。
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