第3話 奇跡

女は、セッションの後、夕飯の支度をするためにスーパーに行った。

普段は、立ち寄らないパンコーナーに行く。

120円のあんぱんが値下げされて

78円になっていた。

女は、ふと、桜の塩漬けって売ってるのかしら?

と、思い、探してみた。


自分が買いたいもの を探すなんて

いつぶりだろう?

必要なものばかり探して、欲しいなんて思いを忘れてしまっていた。


家に着いた女は、娘の好きなハンバーグを作り始めた。

デミグラスソースに目玉焼きのっけ。

作りかけてふと、女は手を止めた。

…。

女は、ハンバーグを自分の分だけ取り分けおろしハンバーグを作る。

私、あっさりしてる方が好き。


心の声とは、こんなふうに感じる心のことなのかもしれない。

なんてことない日常を、どれだけ人に合わせて生きてきたのか。

こんな些細な 自分のための行動 が

女にとっては新鮮だった。

いつから、人に合わせることが正解だと思い始めたのだろう?


そんなことを考えていると

夫が帰ってきた。

「ただいまー。」

夫が女に箱を差し出す。

「なあに?これ?」

「岡山から出張に来た奴が土産で持ってきたんだ。

うちの部署では、誰も食わないって言うから。」

「……‼️あんぱん‼️

桜あんぱん」


女は、驚いた。

今日、話したばかりじゃないか。

奇跡…。


女は、鳥肌が立っているのに気付いた。

Dr.Z、あなたは一体、何をしたの?







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