第8話 助手明子の願い
「先生、人生ってなんでしょうね?」
ゆっくりと煎茶🍵を味わっていたDr.Zに助手の明子が唐突に聞いた。
「と、いうと?」
Dr.Zは、やんわりと先を促した。
明子は、Dr.Zを観察する。
先生は、まず話を聞く。
相手の意図がわかるまで。
私はすぐに、自分の見解を話してしまうけど、先生はそれをしない。
先生は、相手の欲しいものが何か、を
見極めてから動く。
私は、相手が欲しいものが何か、推測して動く。
喜ばれたいから。いや、喜ばれたいのに、だ。
私は、まだまだだな、
そんなことを明子は思った。
「先生、私、先生のそばで心って何だろう?とか、人生ってなんだろう?
とか、学んでるんですけど
なんていうか…
あの、気分よくしてればひらめきが
出てくるとか、そういうHow toは、なんとなく分かってきたんですが
なんで気分よくできないのか、とか
どうしたら気分よく…自分も他人もなんですけど、してあげられるのかとか
わからないことが多くて。
観念という自分だけの思い込みがあって、その観念が自分を縛っててそれが自分の本心と葛藤して苦しくなるというのも分かるんです。
だけど、観念ってほとんどが幼少期に出来上がるんでしょ?
三つ子の魂100までとかっていうし。
それなら毒親じゃなかったらみんな幸せなはずじゃないですか?
だっていい観念しかないんだから。
それに、人によっては、
「うちは毒親だから今不幸なんだ」とか言うけど、話を聞いてみたら
大した毒でもなくて、むしろ愛されてた証拠を示してくるんですよね。
私の捉え方なのかしら?
不幸ってなんでしょうね。
幸せとか不幸の基準って何ですか?
今、私、小手先でちょこちょこ心のこと、やってる感じがし…
私、先生の助手なのにこんなんでいいんですか?」
明子は、一気に喋って、黙った。
Dr.Zを上目遣いに見る。
「いいと思いますよ。」
Dr.Zは、優しく微笑んで明子を見た。
「これは、答えになってるかわかりませんが。
私のイメージですが
人は、生まれた時、点 です。
頭の中の話ですよ。
何の経験も何の思いも湧いてない。
まっさらな状態。
でも、そこには、すでに点はある。
何かを経験して、さらに認識するとその点が大きくなるような気がしててね。
その大きくなり方、ですが
点から矢印が出るイメージなんだな。
認識の数だけ放射線状に。
例えば、お腹がすいたと、泣けば
お母さんが笑顔でミルクをくれる という経験があったとする。
それを繰り返すと、認識するでしょう?
お母さんは安心の存在だ、みたいなね。
それからミルク。
これも、飲めばお腹が満たされるし
不快な空腹感を無くしてくれる。
口に入れて美味しい。安心する。
体が落ち着く。
経験から 何か を認識すると
そこから矢印が出る。
この場合、お母さんという項目の矢印と、ミルクという項目の矢印、計2つ。
その矢印が点だった自分を大きくする。
それが成長。
だけど…矢印だからね。
まん丸に大きくなるわけじゃない。
ちょっといびつな形になってくのね。
それが、後付けの個性だと私は思ってるんです。
例えば
お母さんに安心のイメージがあると
上方向、安心の方に矢印を伸ばしながら成長、
点を大きくしていく。
あくまで、頭の中、意識の話。
ミルクも美味しいとか、安全とか安心とか、プラスイメージなら、上の方に矢印を伸ばしながら成長する。
あ、上方向はイメージ。
色で分けてもいいかな。
明るい方に伸びる矢印と暗い方に伸びる矢印。
うん、こっちの方がイメージしやすそうだな。
ま、いいや。
で、これが1つのパターン。
反対に、お腹がすいて泣いてるのにほったらかしだった場合。
お母さんというもの の存在が薄くないかな?矢印も短くなりそう。
矢印の方向以前にその存在を認識するかどうかも危ういでしょう。
そして、ミルクというのはたまにしかもらえない貴重なもの と感じそうですよね。
ミルクは泣けばもらえるという認識と比較した場合
がんばってももらえるかどうかわからないという認識は
矢印の向きも長さも大きく異なりそうな気がしませんか?
じゃあ、また、別パターン。
お母さんが…泣いたらミルクはくれるけど
哺乳瓶を口に不自然に押し付けたり
無理やり飲ませたり
飲んでるのに、口から引っこ抜いたり
飲んでる最中に叩いたりするのなら?
赤ちゃんは、意識の深いところで
お母さんへの矢印をどう伸ばすでしょう?
安心できないけどそばにいて命を繋ぐ人?
今挙げた例は、たった3パターンだし、
お母さん と ミルク のことしか話してませんが
経験が観念を作り、観念が人生を枝分かれさせる感じがしませんか?
なぜなら
人は、観念 を土台に思考していく生き物だから。
矢印は、経験を深めればその方向に伸びて行きます。伸び続けます。
もちろん、途中で矢印の向きを変えることはできます。
私たちは…
その矢印を思いの力で抑えたり
封じ込んだりしようとしたり
もっと伸ばそうとしたり
無理やり、向きを変えようと試みたり
ある経験からふいに、矢印が
反対方向に伸びることを経験をしたり
矢印の向きが知らないうちにずれてることに気付かなかったり。
そんなことを繰り返しながら
経験の矢印の先端を繋いで
バランスの取れた ⭕️まる を描こうとしてるんじゃないかな。
ほら、健康食品の袋に書いてある
栄養バランス表のような。
このグラノーラ食べたら
普段の朝食より
鉄分とカルシウムが取れてバランス表が⭕️に近付く、みたいな。
私たちは、常にその意識の⭕️まるを
大きくしていってる。
小さくはならない。
一度、知ってしまったものは…認識してしまったものは、無かったことにはできないから。
つまり、矢印がどっかの方向につき出てしまったら、反対側の世界もいずれ認識していく可能性が高くなる。
平和の中では平和に気付けないけど
戦争を経験したら平和に気付けるように。
自分の家が裕福だと知ってしまったら
貧乏というものが存在することも知ってしまうでしょう。
自分の家が貧乏だと知ってしまった時は、世の中には裕福な人がいることを
知ってしまうでしょう。
普段から優しいお母さんの 優しさ を認識するときは、おそらく
お母さんの怖さを知った時だろうと思うし。
毒親の毒に気付けたのなら
きっと、愛をどこかで知ったのでしょう。毒ではないもの があることを。
親を好きで尊敬してるのに不幸を感じている人がいるのは…
もちろん、一概には言えないけど
親の人生を…コピーして生きようとしているから、じゃないかな。
その矢印が
一方向にだけ伸びて、いびつな⭕️のままでいる。
いびつでいいんですよ。
それも個性だから。
だけど、深いところで
それが正解だから、と無理して
その形を保とうとしてるなら…
⭕️に近づけてもいいと知る方が幸せを感じる可能性が高い。」
Dr.Zは、明子を見た。
明子は、しばし考えて
「先生、もっと教えてください。
私、勉強したい。
もっと、先生のお役に立てるように。
今、少し分かりかけた気がしたけど
まだ、腑に落ちてないです。」
と言った。
Dr.Zは、にやっとして
「無料講習はここまでです。
続きが必要なら申し込んでくださいね。
1割引きしますよ。
明子さんのひと月の給料で足りるかな?
とりあえず、来月の給料振込は、止めておきますね。」
と言うと
明子は、慌てて
「先生、そんな‼️私、助手ですよ。
情報共有は必須です。
雑談の中でいいから教えてくださいよ。
私だって、今、1時間5000円で
お試しセッションやったりして、将来は先生に貢献できるよう頑張ってるんですから!」
「将来得られるだろう成果は、明子さん自身が受け取ったらいいですよ。
私は、明子さんの成長した姿を見れば
それだけで満足です。
貢献しようなんて背負わなくても大丈夫。
それから、情報は価値ですよ。
お金に代わる価値があると認識してください。」
「そんな…。
今日から、助手辞めて、弟子になります‼️
ご飯と寝床だけで給料いらないので
先生の頭の中、すべてシェアしてください。」
「だーめ‼️弟子はいらんの!
あんま、言うとクビにすっぞ‼️」
明子は、Dr.Zは、優しさだけの人ではないと知り、ますます惹かれた。
Dr.Zの心療室 なな @nana7hosi
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