パスタの日

朝吹

パスタの日


コオロギが

粉みじんにされて


食べ物の中に練り込まれ

売られているって海外ではもうすでに

パスタやパンやお菓子の中に

乾燥させたコオロギの粉末が、こっそり混じっているらしい


チュチチチチ

ピシシシシ


数倍速の小鳥のようなあの声で啼くのかもしれないパスタがね

ぼくは輸入パスタを青いグラスに立てて 竹藪に見立て

夜の静かな底で、コオロギの墓を眺めてる

共喰いもするような雑食だから

みかん鯛みたいに与える餌で

味わいが変わってくるそうだ翅にふたつの白い斑点があるフタホシコオロギ


コンクリート製造過程でミキサーの中に落っこちて

どこかの建物に練り込まれてしまった作業員の都市伝説もあったよね

首長竜の骨のような万里の長城にも人柱が埋められた壁があり

生乾きの壁に耳をつけて死にゆく夫の声をきいていた若い妻がいたそうだ

内から壁をひっかくよ

外から壁をひっかくよ

大陸の夕陽のあかみが消した

遠い遠い昔の話

その場所を知っている人はもういない


烏賊いか雲丹うにを口にした時とおなじだよ

未来の人間はおいしそうに食べてるよ

共喰いなんて誰でもするんだ眼を閉じて

呪文のようなガダルカナル

ナジノ島の六千人

遺骨が散るよりはきれいだろう


コオロギが

啼いているんだ、涼しげに

グラスの中にボールペンを突きさして灯りを消して

翅のような雪の飛び交う窓を見ながらおやすみを云おうか、パスタにね

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パスタの日 朝吹 @asabuki

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