第12話 幼心の淡い恋の思い出
私はグラード公爵家の娘として生まれて優しい両親と兄二人に可愛がられ、従者やメイドにも良くしてもらい幸せな毎日を過ごしていましたの。
でも私の立場は妹の誕生によってちょっぴり変わってしまいましたわ。
生まれたばかりの妹は小ちゃくてぽよぽよで大変可愛らしくてとても嬉しかったのですわ。
でも蝶よ花よと誰からも可愛がられ一番な扱いをされてきた私は、ちょっとだけ寂しさを感じてしまいました。
乳母もメイドもちゃんと構ってくれましたし、両親も兄達も変わらず溺愛してくれましたのに何故か気持ちが落ち着かなかったのですわ。
そんな中、お父様の執事のクロードが些細な表情を見逃さずにスッと抱き上げて庭を散歩してくれたり、「内緒ですよ」とクッキーやキャンディーを食べさせては甘やかしてくれたのです。
クロードはお父様とさほど変わらない年齢で銀の髪を後ろに流し怜悧な眼差しなのに私を見る目は優しくて。
その顔が見ていたくて大好きになってしまいましたの。
「クロード~抱っこしてくだしゃい」
私はクロードを見ると抱っこをねだり、お散歩やおやつの時間に付き合って貰ってました。
「アルステリア、パパが抱っこするよ?」
お父様が焼き餅を焼いて半泣きになるほどクロードにベッタリ。
兄達は赤ちゃんだなぁと笑いながらもクロードがいない時は構ってくれました。
「クロード、だいしゅきよ」
「私もアルステリア様が大好きですよ」
「うふふ~♡」
クロードは幼児の淡い恋心を傷つけず、付かず離れずで面倒を見てくれました。
「お父しゃま!クロードを私にくだしゃいまし」
そう言っておねだりをしてみたけれど、
「クロードがいないと私の仕事が進まなくなるからお父しゃま泣いちゃうよう?」
「クロードよりお仕事出来る人いないの?」
「いないねぇ。大事な片腕だから許して~」
愛娘のおねだりも通じず、クロードが優秀過ぎるなら仕方ないわ。さすがクロードね!と納得してしまいましたの。
「恐れ入ります」
ってクロードも嬉しそうに笑ってるんだもの。奪えなかったのですわ。
妹のオルテシアが少し成長してよちよちと私に付いて回るようになった頃、私も妹への愛情が増していき可愛くて仕方ない気持ちでいっぱいになりましたの。
クロードへの愛もいっぱいでオルテシアを連れて、お父様にはオルテシアを預けて。
私はクロードに構って貰う。
とは言え、その頃にはクロードが主人の娘として可愛がってくれている事を何となく理解していました。
8歳になってしばらく経った頃、王宮に呼ばれていたお父様が帰ってこられて渋いお顔で
「すまぬ。断りきれなかった」
と私に王子との婚約が成立した事を伝えられたました。
8歳ではあったけれど、すでに自分が公爵家の娘で王族の血筋を持ち、貴族がどう言うものかを学んでいたので、いずれ役割を持つことは理解していたのです。
兄達が怒った顔で私を抱きしめてくれたのをよく覚えています。
お母様も「こんなに早く重荷を背負わせてしまうなんて」と目を潤ませてお父様に身を寄せていらっしゃいました。
そうして王子との顔合わせを迎え対面した日、私を見た王子がチッと舌打ちして睨んできた日、私はこの人との将来は諦めた。
お仕事として王妃になる事を決意したのです。
王太子妃、王妃教育は王妃様が苦労した分私が困らないように綿密にカリキュラムを組まれ、熟練の教師が付けられた。
学ぶことは身を守ること。
いずれは国と民を守るための武器になると教師陣は丁寧に教育を施してくれました。
同じくらいの教育が進められているはずの王子はいつまで経っても自覚が無く、責任感も持たず、ただ親と国が決めた婚約者が気に入らないと荒れていた。
荒れる王子に八つ当たりをされて庭で黄昏てたいたらグランマニエ宰相が隣に座って、
「アリステリア嬢、君は頑張りすぎだ。もっと肩の力を抜きなさい」
そう言って頭を優しく撫でてくださいました。
大人の包容力と言うのでしょうか?
幼き日、クロードに抱いた淡い恋心に似た甘酸っぱい気持ちが湧いてきました。
でもグランマニエ宰相には奥様もお子様もいる事は知っているので、憧れみたいなちょっと心が跳ねる感じでお終いです。
しばらくはお顔を見るとドキドキ致しましたわ。
その頃に王妃さまが身罷ってしまわれて。
私を優しく導いてくださる道標を失ってしまったような、どうしようもない不安感がありました。
王子は母の死を受け入れられず、父である陛下に当たり、陛下は苦労を共にしてきた王妃さまが亡くなって呆然としておられて。
お父様や他の公爵達は対応に追われて喪が開ける一年後まではとにかく慌しかったのです。
それからも定期的に王子との顔合わせはありましたが一向に改善する気配も見せず、ある日はドタキャン、ある日は遅刻、またある日は顔を見て一言暴言を吐く。
その日は庭の散策をと侍従に進められて二人で向かったのだけど、王子は私を置いてすぐさま逃亡していきましたの。
まぁいない方が全然マシなので構いませんでしたが、その日は陛下と遭遇しまして。
状況を知った陛下が私の手を取ってエスコートしてくださいました。
「王子がすまなかったね」
普段あまり表情を顔に出さない陛下がふにゃっと微笑んでくださったのです。
それから東屋に連れて行ってくださって、侍女にお茶とケーキを用意させて場を設けてくださったの。
王宮に通う出してからこうしてきちんとした扱いをされたのは初めてのことです。
お父様やクロード、グランマニエ宰相とは違う柔らかで静かな印象で少し落ち着かない気持ちになってしまって。
「こちらもお食べ」
優しくお世話をしてくださって。今まで見たことがないちゃんと感情のある微笑みを向けてくださるのです。
今思うと少し優しくされただけで簡単に好きになってるのかしら?っと考えてしまうけど、他の人に優しくして貰っても恋したりはしなかったから、包容力とか大人の魅力が私にとっての恋のスパイスなのですわ。
紆余曲折?あって、恋を愛に変えることができましたので私は幸せになれました。
クロードが私の告白をスルーしなかったらまた別の物語になったかしら?
でも優しい夫と可愛い子供達、みんなで暮らせる未来が手に入ったのだから私にの人生はこれでいいのですわ。
棚からぼたもち?婚約破棄されたので諦めていた恋を叶えることにしました 紫楼 @sirouf
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。棚からぼたもち?婚約破棄されたので諦めていた恋を叶えることにしましたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます