第3話 捕らわれて
窓をコンコンと叩く小さな来訪者をエリックは招き入れた。
「可愛いお客さんだな」
銀色の綺麗な羽と青い目をした小鳥はちょこんと机の上におりる。
「足についているのは手紙ですか?」
その指摘にエリックが取ろうとしたが、二コラが制した。
「得体のしれないものに触れるのはお止めください、僕がしますから」
「ぴっ!」
触れられたくないようで、二コラから距離を取ってちょこちょこ歩いて避けていく。
「お前には触れられたくないようだな」
エリックはその様子を見て笑った。
「おいで」
そっと手を差し出すと乗ってくれる。
「綺麗な目だ。いつまでも見つめていたい」
優しい眼差しで見つめられ、小鳥は体を震わせた。
こんな至近距離で見つめられるなんて、もう死んでもいい。
「では手紙を見せてもらおう、少しだけ大人しくしててくれよ」
机に下ろされ、優しく手紙を外される。
『お身体が無事に回復したようで本当に良かったです。あの日あなたを助けられた事はわたくしの一生の誇りです。ずっとお慕いしておりました貴方様と出会えたことも、嬉しかったです。この思い出は一生忘れません。これからもあなた様のご活躍とご武運を遠くの海からお祈りしております。 レナン』
小さい文にしたためるにはこれが限界だった。
でも助けた事、そして好きだという事は伝えたかった。
こんな文でわかるとは思わなかったが、目にしてくれただけで満足だ。
「あの日、助けられた、海……」
思い出そうとしているようだが、記憶になくても仕方ない事だ。
あの時のエリックは気を失っていた、自分のことなど目にしてさえいないはず。
「何ですか、この手紙は?」
二コラは手紙を見て怪しんでいる。
彼はエリックの近しい人みたいだが、手紙を見られるのは恥ずかしい。
「どこの者からでしょう、すぐに調べます」
家名もないから、名前だけで身元が判明するとは思えない。
エリックに手紙を渡せたし読んでもらえたから満足だ。
さてそろそろ帰ろう。
初恋に別れを告げようと一声鳴き、開いている窓から出ようとしたのだが、見えない壁に阻まれる。
危うく墜落しそうになったところをエリックが受け止めた。
「結界を張らせてもらった。悪いが帰す気はない」
先程の優しい目ではない、冷たい冷ややかな目だ。
心臓が凍りそうな程恐ろしい。
「君が帰らなければ、ここにこの手紙の主が来るかもしれないからな」
その手紙を書いたのは自分だと、ピィピィと訴えるが伝わるわけもない。
「君の主はあの日俺を助けた銀髪の女性だろ? もう一度会いたいと思っていたんだ」
どうやら覚えていたようだ、気を失ったとばかりに思ったのだが。
「大丈夫、かの女性が来てくれればきちんと返すよ。あの優しい人が君を見捨てるとは思えない」
逃げられないようにと優しく包まれる。
「二コラ、この子用の鳥かごの準備を」
「はい」
レナンは何とか逃げようと必死に羽ばたいた。
(お母様と約束したのに)
すぐに帰ると言ったのだが、これでは帰れない。
まさか掴まってしまうなんて。
抗議するように鳴くが、エリックは動じない。
「可愛い囀りだ。これから毎日聞かせておくれ」
そうは言うものの表情は怒っているようにも見える。
(誰か、助けて!)
思いを伝えようと思っただけなのに、文字通り籠の中の鳥になってしまった。
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