第6話 色々ピンチ
「誰だ」
エリックの冷たい声が聞こえてきた。
「すみません。事情は後で話しますから、今開けるのはやめてください。お願いです」
震える声でそう頼むが、許されない雰囲気が伝わってくる。
「王太子の部屋に忍び込んでおいてよくもまぁそんな事を。どこから侵入した、賊はお前だけか?」
剣吞な雰囲気に泣きそうになる。
「ここに居るのはわたくし一人です。ですから、開けないで」
開けられるくらいなら死んだ方がましだ。
「ならば聞くが、部屋にいた小鳥はどこだ。今一緒に居るのか?」
エリックの問いに思わず正直に答えてしまう。
「小鳥のレナンはもういません」
「何だと?」
エリックは思わずクローゼットを開けようとし、思いとどまった。
「なぜ名前を知っている?」
そしてこの声に聞き覚えがあった。
「事情を説明しますから、お願いです。海でのことからお話しますから」
やっと誰なのかわかって、エリックは落ち着いた。
「皆騒がせた。こちらの令嬢は俺の客人だ。二人だけで話をさせてもらいたい」
そして周囲に目配せをし、退室させる。
「僕は残りますよ」
さすがに二コラは出て行こうとしない。
怪しすぎるのだから仕方ない。
「二コラも同席させたいのだが、構わないか?」
「構いませんが」
レナンもそこは仕方ないと諦めた。
他の人がいないだけでもマシだ。
「ではそこから出てきてくれ」
「あの、今とても人前に出られる格好ではないのです。出来れば誰にも見せたくなくて……」
「どういう事だ?」
「無礼にも程があるでしょう。顔も見せずに話をするなんて」
訝しむエリックの声と咎める二コラの声に、レナンは決心した。
「不愉快に思われるかもしれませんが、ごめんなさい」
そっと扉を開けて出ようとしたレナンを見て、すぐさまエリックが押し戻す。
「見ていないな、二コラ」
「見ていませんよ」
本当は少しだけ見えたが、正直にいったら殺されそうだ。
凄む目からは殺気しか出ていなかったからだ。
「何故そのような姿に? 衣類はどうした」
「ないのです。出来ればお貸し頂ければ有難いです。代金は後で必ずお支払いしますから」
ないとは妙な話だ。
仮に色仕掛けの為に待機していたとしても衣類はあるだろう。
まさか誰かに衣類を剥がれてここに置いて行かれたのか?
「代金などいい。何故衣類がないのか教えてくれ。持って行った奴を八つ裂きにするから」
自分以もこの女性の柔肌をみたのかと思うと怒りが湧く。
「いえ、あの実はわたくし小鳥になってまして。それが急に人間に戻ったから服もなくて。どうしようかと思ったら結界に触れてしまい、お騒がせしてすみません」
「はっ?」
事の経緯にエリックは驚いたが、事情を聞いて納得した。
「小鳥のレナンはこうして人間に戻ったからもういないという事だな。二コラ、口の堅い侍女を呼べ、衣類の調達をさせたい。それと軽食を。ずっとまともな食事をしていないだろうから、レナンもお腹がすいているだろう」
すぐさま侍女が呼ばれ、衣類と軽食が準備される。
ようやくまともな服を着られてホッとした。
その裏でエリックは二コラに耳打ちをする。
「新たな婚約の準備を頼む」
「ですが、身元の確認は?」
「大丈夫だ」
不敵に笑い、二コラを部屋から追い出した。
レナンはまだ気づいていない、籠からはまだ出られていない事に。
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