第5話 戻れたけど

「不愉快な気分にさせてすまない。君は主の名誉を守るために怒ったんだよな」

 そっと撫でられた。


 優しい気遣いを受けても、申し訳なさが募る。


(どうしよう、エリック様に責任を押し付けてしまった)

 本来であれば責任を取らされるのはレナンなのに。


 まさかエリックがこんな小鳥の為に謝罪までしてくれるなんて。


「大丈夫、俺がついている」

 ふるふると震える体を優しく包んでくれた。


「レナンが見つかったらすぐに帰してあげるからな。それまで俺のもとで我慢してくれ」

 そっと額に口づけをされ籠に戻される。


「少し話をしてくる。その間ゆっくりと休んでてくれ」

 そう言ってエリックは出て行ってしまった。


 確かに疲れた。


 少し休もうかと思い、寝床に移ろうとしたが、体が重い。


 羽を動かしても飛べないのだ。


「?」

 飛んでないのに視界が急に高くなっていく。


(待って!)

 このままでは籠にぶつかると思い、目を閉じ、頭を守る。


 カシャンと音を立てて、籠が壊れた。


 テーブルの上でレナンは立ち尽くす。


「戻った……?」

 突然のことに呆然となるが、急いでテーブルから降りた。


 こんなところを見つかるわけには行かない。


「急いで何か着ないと」

 今エリックが戻ってきたらまずい。


 悪いとは思いつつもこのままではいられない、エリックのクローゼットを開け一枚だけシャツを借りる。


 何もないよりはましだけど、下着も靴もない状態では部屋から出られない。


「どうやって家に帰ろう」

 窓から外を見るが、兵士の姿は見えるし、扉に耳を当てれば歩く足音が聞こえる。


 一か八か、窓から風魔法で逃げるしかないかと思い、窓に触れた。


「えっ?」

 キィーーンという甲高い音が発生し、それを聞いてかバタバタと足音が迫ってくる。


 急いでレナンがクローゼットに隠れると、乱暴に扉が開いて複数の人が入ってくる。


「侵入者か?」

 この声は二コラだ。


 レナンは口を押え、息を潜める。


「……誰か至急エリック様をお呼びしろ」

 壊れた鳥籠を見て、二コラは渋面になる。


 大事にしていた小鳥がいなくなっているのだ。


「侵入者か小鳥かはわからないが、誰かが結界に触れたのは確かだ。小鳥が逃げ出さないように窓と扉は開けるな」

 浴室や本棚の上、天蓋など入念に調べられる。


 このままではクローゼットも時間の問題だ。


(どうしよう)

 いっそ自分から声を出すか、でもこのような姿で見つかったらと思うと恥ずかしくて出来ない。


「ここも念の為探してみるか」

 クローゼットの前で声がする。


 閉じられていたので小鳥が入る隙間はないと後回しにされていたのだ。


 レナンはぎゅっと目を瞑る。


「二コラ、何かわかったか」

 エリックの焦る声が聞こえてきた。


「いえ、まだ何も。廊下には見張りがいましたし、外からの侵入もなさそうでした。ただ、小鳥のいた籠は壊されておりまして」

 ばらばらになった籠を見て、エリックが怒りに震える。


「誰がこんな事を」


「わかりませんが、小鳥の力で出来るものではありません。しかし何かの衝撃で壊れ、逃げ出した可能性もあります。今全力で捜索していたのですが。あとはここを今から探したいのです」

 クローゼットを示される。


「エリック様、許可を頂けますか?」


「別に構わないが」


「お待ちください!」

 一か八かでレナンは声を上げた。

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