第4話 小鳥生活
さすがに虫は嫌。
「好き嫌いの多い子ですね」
二コラがふうっとため息をついて文句を言うが、色々と用意してくれた。
悪い人ではなさそうだ。
砕いたナッツや、小さくしてくれた果物も用意してくれたので、喜んでそれらを口にする。
「レナンに変なものを食べさせるな」
手紙に書いてあった名前をそのまま採用され、そう呼ばれる。
あれから籠からは出されるものの部屋からは出してもらえていない。
「本日はマリアテーゼ様がいらっしゃいますね」
二コラの言葉にエリックから表情が消える。
確か婚約者となった人の名前だ。
「そうだったな。レナンの事はどうするか」
少し悩んだ素振りをしていたが、一緒に連れて行かれた。
「なんて可愛らしい小鳥。エリック様は動物が好きなのですね」
金髪碧眼の綺麗な令嬢が優雅に微笑む。
これが本当のお姫様なのかと見惚れてしまった。
「大事な人から預かった特別な小鳥です。受け取りに来るまで今は俺が世話をしているんですよ」
無理矢理閉じ込めた癖に、平然と凄い事をいうものだ。
「そうなのですね、エリック様は自ら世話されるなんて本当にお優しい」
優しくなんて全然ない! とピィピィと鳴いて抗議するが、微笑ましく見られるだけだ。
「マリアテーゼ嬢、お聞きしたい事があったのだが」
エリックはお茶を飲みながら、そう切り出した。
「あの日海に落ちた俺を助け、介抱してくれたのは本当に貴女だったか? 記憶が曖昧でどうにも思い出せなくて」
「えぇ。たまたま散歩をしていたら騒ぎが聞こえまして。急いで海にいったのです。私水魔法が得意なので、海の中でも平気ですの」
そう言ってにこやかに話すのを聞いて、レナンは猛抗議した。
助けたのは自分だ、この女性は嘘をついている!
好き合って婚約したならまだいい。
しかし平気で嘘をつくような女には渡せない。
「どうしたのかしら、急に鳴き出して。外にでも出たいの?」
出された指を思い切りつつく。
小鳥の体だし手袋越しだからまるで痛くはないはずだけど、驚いたようだ。
「大丈夫ですか? 二コラ、すぐに診て差し上げろ」
エリックは鳥籠を下げ、従者に命令をする。
「怪我はないようですが、痛くはありませんか?」
マリアテーゼは怒りの為か震えている。
「こんな、こんな事をするなんて、なんて躾がなってないのでしょう」
急に手を出す方が無作法だとレナンはぷんぷんだ。
「失礼。この小鳥の主に代わって謝罪を。どうか許して欲しい」
その言葉にレナンは自分のしてしまった事に気づく。
エリックは全く悪くないのに、自分のせいで頭を下げさせてしまった。
申し訳なさでひよひよとか細く鳴けばそれが届いたのか、微かな笑みが向けられた。
「エリック様が謝られることではないですわ。悪いのはその鳥ですもの」
可愛い顔から一転して怖い顔で睨まれ、身がすくむ。
この体ではさすがにか弱い令嬢にも敵わない。
「本当に申し訳ない。二コラ、治癒師を呼んでくれ。マリアテーゼ嬢に回復魔法を」
大げさな事だが、大事にしたくないのだろう。
「俺はこの子を部屋に戻してくる、興奮してしまっているようだからな」
寧ろ今は意気消沈だ。
申し訳なく思い、羽をばたつかせ、ぴぃっと泣いてしまった。
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