着ている服を濡れ衣にされた

『あーゆー女、ムカつくんだよねー』

私の事だと気づいているのかいないのか分からないけれど、私のことだ。


「葉山(はやま)って女ー、いっつも倉橋君に気に掛けられていて、目障りすぎたー!!!」

あ、私のことだ。あの気持ち悪いくらいに、倉橋君に付き纏われていた、葉山は私だ。

「そういえば、こーゆー顔してたねー、隣の女みたいな」

もう一人、同級生らしき人物が私の顔を見ていう。


「あの女、老けてデブになってると良いのにー」

「そうそうー、そいつみたいにいかにも綺麗みたいな感じじゃなくて」

「でも、性格最悪でしょ?」

「そうだったねー、憂さ晴らしでもしようかー」


周囲の客の迷惑すら顧みず、大声で盛り上がる二人の同級生の女性。

なんでこんな時に会ってしまったのだろう。


「紡君、注文するもの決まった?」

二人でメニューを見ながら、気にしないふりをしていたが。

紡君に作り笑顔を見せたが。

そんな顔を見た紡君の表情はどこか悲しげで。


なんとか、注文をして、ハンバーグを食べ終えたが、その頃には気分が重くなっていた。

「……紡君、なんだかごめんね」

「謝らないで、悪いことしてないんだから」


しばらくして、会計を済ませに紡君が席から離れていて、私も椅子から立とうとしたところで。

「冷たっ!」

私は声を上げた。


「あー、すみませーん、水こぼしちゃったー!」

「わざとじゃないし、ただの水なんでクリーニング代なんて出さなくて良いですよねー!」

見ると、右足のスカンツの裾やブーツに水がかかっている。


「お客様、大丈夫ですか!?」

店員さんが急いで布巾を持って駆け寄る。

「姉さん!」

紡君も急いで駆け寄ってきた。


『姉さん』

紡君がそう言う呼び方をしたせいか。

「姉弟なら、最初からそう言う会話しろよ……」

「うちら、イケメンから嫌われちゃったじゃん……」

同級生の女性二人が言う。


紡君がさっと、スマホを操作していると思ったら、

「伯母さんのスマホに先に出るって連絡しておいたから」

「え?」

「さっきの梅の木の前のベンチが二基あるところで、待ち合わせようって。きっと分かってくれるから」

「うん……」

二人でレストランを後にした。






「ごめんね、気にしないで……」

重くて重くて仕方がない気分ではあるが、楽しいはずの時間をこんなことにしてしまったのは、私だろう。

「本当にごめんね……」

私がそう言いながら歩いていると、人通りの少ない大きな通路に出たところで、紡君は私をお姫様抱っこした。


「!?……つ、紡君!」

私が抱えられたことに驚いていると、

「もう少しで待ち合わせ場所に着くから、我慢して。濡れた靴で歩くのは気持ち悪いから」

紡君がなんでもなさそうに自分を持ち上げたことに驚きすぎた。

人通りが少ないと言うだけで、人は通っているのに、そんなことするんだと思った。




紡君は梅の木の前のベンチに私を下ろすと、今度は私の足元にしゃがんで、右足のブーツを脱がせた。

少しブーツの中に水が入っていて、ちょっと気持ち悪かったけど、その後紡君どうするんだろうと思っていたら。


私の右足とスカンツの水で濡れた部分を光で包んで、足をレンガづう栗の地面から10センチほど浮かせた。

そして、私のブーツも光で包む。

「そうだった、紡君って、光の魔法使いだった……!」

私が驚いていると、紡君はこちらの顔を見て笑顔を浮かべ、今度は立ち上がって、手のひらに様々な色の光を作り上げた。


「歩姉さん、この光を飲み込んで、光が体内で輝いているイメージをしてみて」

私は紡君の掌にある光をどうやって飲み込めば、と思っているところで、紡君は

「少し上を向いて口を開いていて。僕が光を口の中に入れるから」

と言うので、その通りにしたら、なぜか紡君は少し顔を赤くしていて、なんだろうと思った。




「わぁ、なんだか心が軽くなっていくような? なんだか気持ちがゆったりしてきた……」

「光は、明るく軽くだから、こう言うのにもってこいなんだよ」

「ありがとう、紡君……!!」

いつの間にか光の熱で乾いていたスカンツと足とブーツに感激しつつお礼を言った。

すると紡君が照れたようで、弟がいたとしたらこんな感じかな? と思った。




しばらくしてから。

「大丈夫? 歩ちゃん!」

「紡君、ありがとうね」

お母さんとおばあちゃんが、待ち合わせ場所まで着て、声をかけてくれた。


「紡君のおかげで、大丈夫になったよ」

私は満面の笑みで答えた。

「紡君が光を呑ませてくれてね……」

と話を続けようとすると、


「あ、あれは、たっ、大切な……」

と紡君が急に言葉を詰まらせるのを見て、お母さんが。

「察しなさい、歩ちゃん」

と私の近くに来て、小声で言った。

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藤色の心の魔法使い 糸石刃純 @derudasugida

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