なにがやったんだよ

「車の中の死体は俺が殺した、俺が殺しました。道の真ん中で立っていた女の子を轢き殺したんです。俺のドライブレコーダーにも映ってるでしょう?」


 取調室で、婦警を相手に俺はそう問いかける。

 そうだよ、俺だよ。あの時、俺は鈴木って女を殺していた。

 車のブレーキは間に合ってなかったんだ。でもあいつは俺の車の中に居た。生きてると思い込もうとしたんだ。思い込んで会話を続けていた。


「落ち着いてください。矢賀健児さん、あなたが女性と車に乗っていたことはわかりました。ドライブレコーダーにもその姿や会話の音声が残っています」

「俺の声だけでしょう? 生きているわけがない。飛び出してきて、ブレーキが間に合ってなかったんだ。ブレーキは間に合ってなかった。なのに俺はなんとかなったんだと。自分が車で撥ねたはずの相手が窓を立ていて車に乗り込んできたから、それらしい物語を頭の中で作ったんだ。相手が乗り込んできたってのもきっと嘘だな。野ざらしにしたくないからって死体を俺が引きずり込んであのコンビニまで乗せていった」

「いえ、彼女は自分の意志であなたの車に乗り込んでいます」

「俺は一体どういう罪になるんですか。会社も首でしょう? なんで、なんでこんな」

「矢賀さん」

「なんですか?」

「落ち着いてください。あなたはです。容疑者ではありません」

「容疑者だろ、女の子を車で轢き殺した筈だ! 死体だって車の後ろにあったんだろ!? 俺が店の奥に居る間にコンビニの店員が警察を呼んだんだから! 俺は何を見たんだよ、誰に缶コーヒーを渡したんだよ!」


 婦警は困ったようにため息をつく。


「見つかった死体は男性の十二指腸と大量の血液。あなたの通った道路で起きた事故車のオーナーです。あとは缶コーヒーの空き缶しか残っていません」

「俺は人を殺したんだよ」

「それは警察が調査します」

「俺がやったんだよ」

「あなたは事故車と中に居た人間を放置して通り過ぎてしまっただけです」

「俺は殺したんだ」


 死んでいてくれ。

 死んでいてくれ。

 鈴木ってやつが、死んでいてくれないなら。

 俺の車の中に、人間の十二指腸だけを残していったのなら。

 頼むから死んでくれ――化け物。

 お前が死ぬなら俺は人殺しでいい。


!」

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#ナニカを乗せて走ってた 海野しぃる @hibiki

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