第四部 無双編

第185話 さらなるパワーアップを

さて、冒険者活動を休止して、のんびり過ごすつもりのクレイ。ヴァレットの自宅に戻り、何もせずに過ごそうとしたが……


ずっと食っちゃ寝して過ごすのには限界があった。


一週間も続ければそんな生活はすぐに飽きてしまう。なぜなら、この世界にはテレビもラジオも小説もネットもないのだから。


日本であれば、ポップコーンとコーラを用意して動画配信サービスでドラマや映画を見たり、SNSを巡回しクソリプを書いているだけでもどんどん時間は過ぎていく。二十一世紀の日本は情報過多、刺激過多であり、それをすべて謳歌しようとすると時間はあっというまに無くなっていく。


だが、文明レベルの遅れ気味な異世界ではそうは行かない。


(※もう少し安全な世界であれば文明も発達するのだろうが、魔物が闊歩し、常に命の危険がある世界である。生き延びるだけでリソースを消耗してしまうので、異世界は地球に比べて文明が発達しにくいのである。)


楽しみと言えば食べる事とセックスくらいだろう。(だから人間種は他の長命種に比べて子供が増えるのが早い=繁殖力が高いという事情もあるのだが。)だが、クレイには恋人は居ない。身近に猫娘が二人居るし、二人はクレイの相手をするのは吝かではないようなのだが、クレイは尻尾が生えた相手をどうしても性的対象として見られないのであった。地球時代に猫を(一時)飼っていた事もあるが、そういう獣を相手にセックスできるかとクレイは考えてしまう。世の中にはそういう趣味の人間も居るかも知れないが、クレイにはどうしても無理であったのだ。やはり、クレイは、恋人は “人間” の娘が良いのであった。(そういう意味では、獣人以外の亜人種、エルフやドワーフなども、人間ではないという事で、クレイには抵抗があった。)


ただ、街でナンパなどする気にもならず。日本でも女性に対しては小心奥手な性格だったクレイは、道行く見ず知らずの女性に声を掛けるなどした事がなかった。また、女性が接待に付くような店で飲んだりもした事はない。


そういう店・・・・・はこの世界にもあるが、酒が好きでないし、小中学校からプログラマーだったクレイはどちらかと言えばヲタク気質であり、そういう店で騒いでも楽しいとは思えなかったのである。(もちろん、風俗店利用の経験などもない。)


女性が駄目なら食べる方はというと、こちらも地球(日本)とは比べようもない。この世界にも、まぁまぁ美味しい料理や酒はある。だが、やはりどうしても日本に比べると、料理のバリエーションは乏しい。ましてや菓子系は壊滅的である。スナック菓子などあるわけもないし、ケーキなどはあるが、王族や貴族の贅沢品で庶民には出回らない。そして、清涼飲料水などもない。酒を好まないクレイは、地球時代、好きだったのはコーラである。だが、この世界にはコーラは存在しない。(ちなみにクレイはココ・コーラ派で、ペパス・コーラはイマイチと感じていた。)


ハーブや炭酸水を探し、コーラを作ってみようかともクレイは思ったのだが…、日本に居たときも、コーラ好きなクレイは “自家製コーラ” というのを見かけるたびに必ず飲んでみたが、どれも甘口のジンジャーエールのような感じで、ココ・コーラに近いものは存在しなかった。


ココ・コーラ社は、コーラの製造レシピを厳重に保管して絶対に公表しなかった。あれを、ましてや異世界の材料で再現できるとは思えず、クレイは実行には移さなかったのである。


結局クレイは、時々雑用(ダイナドー侯爵家の件他)をこなしつつ、主に魔法陣の研究・検証をしていたのであった。


暇になってボ~っとしていると、ソースコードの改良案がふと浮かんでしまったりして、コードを書き始めてしまうのは趣味か、習性か。


ただ最近は、コードを書くのではなく魔法陣の具体的な動作の検証をしていた。


先日の貴族学園立て籠もり小事件や襲撃事件を経験して、少し魔法陣の実用面での検証が必要だと思ったのだ。


転移魔法陣を攻撃的に使う方法、及び、それ以外にももう少し使える魔法の幅を広げたいとも思った。


現在、クレイが使える魔法は転移系以外には、生活魔法だけなのである。


ダンジョンで魔導銃をぶっ放して魔物を狩っているだけなら問題ないが、それ以外の活動や、暗殺者などと戦うなんて事態も想定しなければならないとなると、もう少し違う魔法が使えると助かる事もあるだろう。


生活魔法は、光の魔法陣を使って、ストックしたカスタマイズ済み魔法陣を投写する事で実現している。


現在クレイが使える生活魔法は【水を出す】【風を出す】【温める】【冷やす】【火を出す(着火)】【清浄にする《クリーン》】の6つであるが、これ以外にも、魔法陣を入手すれば(それをクレイが起動できるように改変・再コンパイルする必要はあるが)使えるようになるはずである。


攻撃魔法の魔法陣というのも入手する事が可能なら、同様に使えるだろう。


ただ、クレイが今いるこの文明では、貴族の魔法が重要視され、魔導具は衰退してしまっていた。魔力が乏しい者が攻撃魔法を放てるような魔導具など見た事がないのであった。


探せばあるかも知れないが、追々ということで、とりあえずクレイは生活魔法の中で攻撃に使えそうな魔法がないか考えてみた。


一番最初に思いつくのは火を出す魔法陣であろうか。通常は焚き火などの着火に使う魔導具で、ライターのような小さな炎を出すだけである。だが、これにリルディオンから大量の魔力を流し込めば、バーナー程度には炎が吹き出る。


さらにこの魔法陣を同時に数個重ねれば、ちょっとした火炎放射器のようにもできる事がわかった。と言っても、バーナーの大型版程度の炎なので、攻撃魔法としてはちょっと弱い。もちろん、ピンポイントで活用できる場面はあるだろうが…


火属性の攻撃魔法の代表、火球ファイアーボールに比べると、威力も弱いし、使い勝手もよくない。


それに、著しく燃費が悪い。リルディオンの魔力炉から直接魔力が供給されているのだから燃費を気にする必要もないのだが、どうも他の人間が使う火属性の攻撃魔法は、そこまで膨大な魔力を使っているようには見えないのだ。


おそらく術式、いや、方式・原理そのものが着火の火魔法とは違うのだろう。使用する魔力に対する熱量の効率が桁違い過ぎる。それに、着火の火魔法をいくら強化しても、球体状に炎をまとめて飛ばす、などという事はできそうもない。


そもそも、火属性の攻撃魔法の基本、火球ファイアーボールであるが、冷静に考え始めると、なんだか謎な現象である。


一体何が燃えているのだろうか? 何か燃料が燃えている、というわけではないのか? 何故球体状になる? なぜ飛ぶ? なぜぶつかった後爆発して広がる???


謎は深まるばかりである。




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異世界転生したプログラマー、魔法は使えないけれど魔法陣プログラミングで無双する?(ベータ版) 田中寿郎 @tnktsr

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