つるし雛の舞を眺める守り神(母)からは、熱き想いが届いてくる。


────純文学やライト文芸(大人向けライトノベル)のジャンルが好きです。
今回は西さんのひときわ個性的で日本らしい世界に立ち寄らせていただきました。作品のエピソードは愛娘と息子の幸せを願う守り神となる〝つるし雛〟

余談ですが、この風習は全国でも珍しく、静岡県では「雛のつるし飾り」、福岡県では「さげもん」、山形県では「傘福」と呼ばれ、親しまれています。
けっして八段飾りの雛人形のような豪華さはないが、端切れなどで創り上げ、ずっと大切な人への途切れぬ想いを語り継いでいると聞き、昔から好きだった。

登場人物は年老いた母と愛娘の分身となる〝つるし雛〟
この家族は母子家庭だろうか。主人公の母のモノローグ(独白)が冒頭から最後まで続いて、時に雛が口を挟んでぼやいてくる。読み進むにつれ、娘や息子の幸せを願う母の熱き想いが感じられてしまう。

ところが、実のところ、実娘の純子は嫁ぐ際に母と可愛い吊るし飾りを見捨てて、旧習に縛られる実家を飛び出していたのが分かる。寂しそうに取り残された雛は何気ない日常にくるくると舞ってしまう。

エンディングでの母の告白、独り言は諦めだろうか……。いや、違うはず。主人公は女手一つで子育てを終えていた。今やそっと遠くから見守る心境となっている。きっと、巣立っていく子供たちが元気で幸せなことを振り返り、満足感に浸っていたのだ。読み終わり、ふとそんな気がしていた。