第6話 為替商
金貨が不足している。
為替商のところで何がしたいのか明確でないから、とにかく元手だけは作っていくことにした。
冒険者ギルドのシェーラに馬鹿にされた俺の商売だ。
いつものように鯛のアラ汁を生産魔法で創り、市場の隅っこのほうで店を構えた。
徐々に露店の設備が充実してきた。
木のボードに店の名前を書いて置いている。お持ち帰り用の茶碗を揃え、地面にはカラフルな敷物をしていた。
客足は普段とは変わらい。8時間営業してようやく25杯売れるぐらいで、いつも来てくれていたお客さんもいる。
「今日もお店出してるのね」
「毎日営業しますよ」
「これどうやって作ってるの?」
「自分でレシピを考えてから、生産してます」
「ふうん。2杯ちょうだい」
「まいどあり」
2杯で、銅貨6枚とお持ち帰り用の茶碗代だった。
営業を続けると新しいお客さんもそれなりだが、しかし、このおばさんはもう来なかった。
一週間ずっと働いて、金貨が4枚貯まった。
労働は辛いが、最初の資金源としてはまぁまぁの仕事のはずだ。
8時間立ってスープを売るだけで稼ぐことができる。
客層が徐々に変わり始めている気がした。
鯛のアラ汁商売の資金を手に、為替商のもとに行くことにした。
為替商のところに行って何がしたいのか。それがまだ明瞭でなかった。
誰も俺に稼げる話を教えてくれない。友達作ったほうがいいんだろうなあ。
為替商でいいかあ。まだ会ったこともないけど。
その店は、割烹店が上がる時に利用した為替商だ。
寂れたスラム街付近にある。店の敷居をまたぎ、中で商人に話を聞いた。
「こんにちは」
「いらっしゃい」
「ニールです」
「ワンドだ」
握手を交わして、自己紹介。
「私も為替を取り扱いたいんですが」
「お兄さんが為替を? 向いてないよ」
「為替取引に詳しくなりたくて」
俺が言うと、彼はぷっと吹き出した。
「いきなり何を」
「実は露天商なんです」
「それは知らないけど、1人じゃあね」
彼は値踏みするような目で俺を見た。
騙されそうな気がする。
「あんたは何をしたいの?」
「ここで海外の貨幣を買うことができると聞いたんですが」
「あぁ、それはうちの仕事だね。最近じゃ、国外ならリュミス皇国の金貨ならいいけど」
そういえば、あの会社は戦争特需を利用したと聞いた。
為替に手を出して、国外の金貨を買ってそこから先の俺はどうするというのだろう。
リュミス皇国の特産品でも買ってスープに入れるか。
「その金貨で珍しいワインか魚介類でも買おうと思うのですが」
「それなら進駐軍の売店行くといいんじゃないかな。どれだけ持ってるの」
「いやぁ、金貨1枚しか出せないんですが」
「ふざけてるんじゃないんだよ! そんな少額でどうするってんだ」
「なら金貨5枚で買えるだけ」
「ああん? ……なら手数料引いてリュミス金貨2枚と銀貨5枚ですかね」
はい、どうぞと硝子窓越しのカウンターに貨幣が差し出された。
「あのね、いいこと教えてあげるけど。為替は売店での買い物が目的じゃなく、賭博だよ」
「はぁ」
「あまり為替に嵌まんないことだね」
為替商の店から出て、近くにあるリュミス皇国軍の運営する売店に行った。
売店では高級な食材を手に入れることができた。
調理用のワインと異国の香辛料を買ったついでに、魚介類のスープのレシピも教えてもらった。
生産魔法で産める食材は増えたのは確かだったが、これを使って新しい料理を行えば、より稼げる? 違うな。
鯛のアラ汁から次に行くだけで、お客さんは激増はしない気がする。
翌日に新魚介類スープと鯛のアラ汁の両面作戦を行ったが、案の定お客さんはあまり増えなかった。
売上も上がらなかった。
なぜだ……。元手が足りないんじゃない、儲かる商売の話を知らない。
やはり、自分はいっぱしの商人になれたのだという、肥大化した自意識がめんどうだった。
半農半商から出直そう。
朝4時に起きて、近くの森で薬草採取。
朝8時には冒険者ギルドで薬草売却して銀貨2枚を回収。
朝9時から夕方17時までは2種類のスープ販売。
金貨1枚の売上。
夜18時に仮眠を挟んで、最後のMP消費で冒険者ギルドでポーションの売却。
銀貨2枚。
1日に金貨1.4枚の稼ぎとなった。
あれえ。これただ重労働してるだけじゃないのかなあ。
こんなに苦しいの、働いて稼ぐって。
もっと楽して生きたかった……。
速攻で稼いだ資金を為替に突っ込む。
「ワンド。新しい為替を買いたい」
「うそー」
「金貨1.5枚分だ」
「あ、それなら博打用の闇金貨を教えてあげるよ」
やっと美味い話が転がってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます