第2話 ギルド

 生産チートの魔法を使って収穫したものを、ギルドで売れば儲かる。

 それもポーションや蘇生薬などの完成品を。

 これから簡単な商売になるはずだった。


 俺のステータスの最大MP値は45だ。

 生産魔法を1回使うのに、MP2~MP45は消費する。

 色々なものを生産できないかと頭の中のメッセージで確かめてみると、以下のようにリストアップできた。


 消費MP2 野菜、小魚

 消費MP5 肉、スープ、低級ポーション、各種異常治療薬

 消費MP10 ポーション、MPポーション、銅像

 消費MP15 銀の剣、鉄の盾

 消費MP30 蘇生薬、馬車

 消費MP45 金貨1枚


 消費MP30で馬車が産めると知ったときは最高に笑ったが、金貨まで産めるとは知らなかった。

 金貨を1日最大限に産もうとしても、1枚。宿屋でMPを回復するために必要な金貨の相場は1.5枚。

 普通に暮らすなら間違いなく最優等の能力だが、これから資金ルートを作って登っていくためには色々頭を使う必要があるだろう。


 冒険者ギルドで歩いて行くさなか、俺は生産魔法でポーションを3個作成することにした。

 今日はこれが限界生産量ギリギリだ。


【生産魔法を発動します。ポーション×3を生産】


 天からポーションが3個出てくる。

 中級か上級ポーションだ。

 このポーションを手に持って、俺は冒険者ギルドの看板を叩く。


 中に入り、受付嬢のところに一直線に向かった。

 この10年通い詰めているギルドだ。誰が何を知っているか、すぐに分かる。


「シェーラ」

「あら、ごきげんよう。ニール」


「買い取って欲しい物があるんだが」

「薬草? いいわよ」


 その微笑には、嘲りが含まれている。

 これまで俺は貧民奴隷だった。だが、今日から富豪まで駆け上がってやる。


「違うんだ。今日から、ポーションを卸したい」

「えっ。それはどうしたの急に。もう何年も『薬草採取』があなたの役割(ロール)だったはずなのに」

「いやまぁ。とにかく頼む、ポーション3個だ」


 ドン、とカウンターの上に品を置いた。

 シェーラはびっくりした眼で眼の前のポーションを見つめていたが、やがて鑑定する気になったようだ。


「……本当だわ。ちゃんとしたポーションのようね」

「買い取ってくれるか?」

「うーん、ポーションはギルドにも専門の加工業者がいるからなあ。あなたには薬草採取してもらうだけで良かったんだけど」

「薬草採取だけじゃうだつが上がらないだろ」

「それはそうだけど……。今日は銀貨2.4枚ならいいわよ」


 安かった。これならMPを最大限利用して、金貨1枚を生んだほうがいいような気がする。

 それに借金が金貨200枚ある。毎月利息の支払いだけで金貨20枚が必要になる。生活費は一ヶ月に金貨40枚ほど必要だ。


 ケツに火がついているのに、ちんたら稼ぐなんてできない。

 しかし今日は売っておこう。


「分かった。それで結構だ」

「あらそう? ごめんなさいね」


 ふっと笑った。

 嫌な女だ。美貌と立場を鼻にかけ、こちらを見下してやがる。


「どうぞ、買い取り代金です」

「どうも」


 カウンターの上に銀貨が2枚と銅貨が4枚出てくる。

 それをつかむと、俺はがま口の財布に入れた。

 ついでにシェーラに尋ねることにした。


「これからポーション製作で生計を立てることはできるだろうか?」

「あなたには今までどおり、薬草採取の役割(ロール)を期待しております」


 そうだろうなと思った。

 やることを変えた人に、他人は冷たく当たる。

 俺の役割(ロール)はすでに生産に変わっているのに、人が認めるには時間がかかりそうだった。


「じゃあな、シェーラ」

「またのご利用をお待ちしております」


 一瞥をくれて、冒険者ギルドから出ていった。

 これからどうやって商売していくか。自分で薬屋に卸すには、営業努力ができそうになかった。

 

 路上に出て、頭をひねらせる。

 市場(バザール)に視察に行ってみるか。



 王都の中央通りは、市場(バザール)になっている。

 利用料を管理人に払うと、路上に店を開き、誰でも行商を行っていいことになっている。

 俺は今後、ここでポーションを売れないかと画策することにした。


「へい、らっしゃい!」

「銀貨2枚で美味しい思いさせてあげるよ! うちの揚げ鶏は絶品だ」

「お兄さん、装飾品買っていかない?」


 市場に出ると、露店商の呼び声が次々にかかった。

 客も多いため、目まぐるしいムードに押され、ゆっくり見て回る暇がない。

 露天商の中には、銀の装飾品売りや民芸品売り、飲食店が多かった。


 俺のようにポーションを3個売っている商人なんていなかったから、店を出すには取扱量を増やすことだろうと思った。

 少なくとも、薬師と組んだほうがいいな。ポーションでも、様々なタイプを取り扱わないといけないから。


 商売って難しい。

 その日、俺は宿屋に帰って借金を増加させるだけの一日を送った。


 明日から、全力で稼いでやる。

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