第42話 ハッピー・デビル・ウエディング(アスタロト視点)
「とうとう、年貢の納め時だなアスタロト」
フランクに大声で話しかけるアザゼルがいた。
この悪魔はどうして、こう気安く話しかけ、肩を組んでくるのか?
暑苦しい奴だ。
アザゼルは、風に由来のある悪魔だ。
本人は、まったく真逆の暑苦しい性格をしている。
一般的にどう思われているかは、不明だが、おそらくは、人間界に流布されている、印象とはだいぶ違うだろう。
「恐ろしい悪魔を生み出してしまったなぁ~」
「大丈夫。大丈夫、なんとかなる」
「人間年齢17歳の若くて、カワイイもんね」
ベルゼブブ、ありがとう。今日は参列してくれて。
でも、今は、黙っていろ!
その情報は、あのアホに燃料をザッパザッパ浴びせかけるに等しい行為だ!
ちなみに、このベルゼブブも一般的に有名な悪魔になる。
悪魔界の序列二位を保持し続けている、実力者だ。
愛らしい、小さな姿とその声に騙されると、臭い、もとい、痛い目に合うことうけあいだ。
「えっ!?ほんとか?マジで、17歳なのか?」
我のこの日の為の正装をグイグイ力任せにひっぱるな!!
この馬鹿アザゼル!!
「ああ、だがな、手に負えない」
ああ~、はっきり言えばすっきりするんだろうなぁ~
「アスタロト、わざとだよ!」
やっぱりな!!
「おまえ、テレパシーで考えまる分かりだからな」
そうだな、うん。
「それにしても、披露宴パーティーはスゴかったねぇ~アスタロト。そう思わなかったアザゼル?」
「どこがじゃ!?あの悪趣味!アスタロト!おまえ、趣味わるいぞ」
「……我ではない」
言いずらい。
そうか、人間も小声になる時の気持ちは、こんな感情になるからか~。
「なんだ!?」
「なんだって?」
「我の趣味にあらず!わかったか?もう、二度といわせるな!!」
「じゃ、まさか!?」
「噂になっている、我が爆誕の一助をしてしまった『小悪魔ちゃん』の趣味だだ!!」
ふたりは互いに抱き合い、震えあがっている。
アザゼルとベルゼブブを震え上がらせる悪魔が爆誕する時代がくるなど、想像できた者がいようか、いや、いない!!
「あら?わたくしのこと、お呼びになりましたかしら?」
我ら三人が、そろって背後を取られてしまった!?
マリーは、教えなもしないうちに、瞬間移動を習得した。
技の対象は、マリーとマリーが移動させたい物と者。
我が蔵書より本人曰く、
「本をよんだら、できちゃった。わたくし、天才かもしれません」
ーそうだなー
「奥様!お式の演出すごかったですねー」
勇者アザゼル、お前は本当にすごいぞ!
「そうでしょう?昼寝をしながら、夜、寝ないで考えたのですよ」
ーおおっ、ふたりが、ふたりがだっまったぞ!!すごい効果だ!マリーー
ーいつもこんな感じなの?アスタロト?ー
あっ?
ーそうですわよ。いつもこんな感じです。ベルゼブブ様ー
うん、悪魔だから、できるんだ、テレパシー。
「おふたりとも、どの演出が良かったですか?」
これは!?
なんという答えに窮することを質問するとは、ひどすぎるぞ我が妻マリーよ。
ベルゼブブとアザゼルの目が死んだ。
「入場かな?」
半疑問形。
己に問うているのだ!これで本当にいいか、問うているのだな、二人とも。
「そうでしょう!さすが、お目が高いですわ」
マリーの希望で、わたしたち夫婦は、
ふつうは、馬がひく乗り物だが、馬の代わりに人間の男女が戦車をひいている。
和やかな雰囲気は、氷りついた。
「なんだ!?あれは?」
「まさか、人間?」
「人間に戦車を引かせて入場してきたぞ」
「人間?」
「ほんとに!?」
「今時、どうなんだ。アレは?」
「ひどいなぁ~」
「むごいことなさるのねぇ~」
招待客の悪魔が、引いていく音が聞こえてくるようだ。
もう、ひきすぎて、招待客の姿がみえないようだ。
ふたりしか乗れない戦車だが、見る者へのインパクトは、絶大だった。
「アレ、なんでも花嫁が人間だった時に、裏切った元夫と元義理の姉だそうですわ」
「えっ?」
「なんでも、地獄に落とされたのを、わざわざ『しもべ』にするためにプレゼントさせたのだとか」
「今どき人間をプレゼントですか?」
「それがね、送り主が、……ここだけの話よ。神様、そう神様らしくて」
「ええっ!!」
「なんでも、神とも交流があって、あの小悪魔、神様のお気に入りだとか」
「まぁ!いまどきの若い悪魔は怖いわねぇ~」
「ええっ!?大丈夫か?あの小悪魔?」
披露宴のざわめきは、おさまらない。
「見どころあるな小娘が!」
「ルシファー様、小娘でなく、小悪魔です」
「フン!わかっている。えらいもの生み出したな、アスタロトは?」
「毎日頭を抱えています」
「おっ!!ヤギハシ!元気か?」
「いいえ、あまり。人使いが荒いんです、小悪魔マリー奥様は」
「ほう?」
「こんなこと言うのは何ですが、近隣といわず気になる村々から人をさらってくる
「人さらいか?今時、見込みのある悪魔じゃないか!」
「はい。それはそれは、窮状に
「?」
「スオカ王国がなくなり、ひどいありさまだとか」
「……?らしいな、スオカ王国滅亡後のことは、聞いている」
「ああ、ルシファー様は、もうご存知ですか?」
「なにをだ」
「その、スオカ王国の滅亡の引き金を引いたのは、人間のころの小悪魔マリー奥様です」
ールシファー様、驚いてワインを吹き出しました。アスタロト様ー
いちいち報告しないでも、全部見聞きできている。
「さらに、そのすきに領土を横取りして勢力を拡大したのです!」
「強奪か!?荒っぽいな!!」
「強奪した土地からは税金を徴収するのですが、スオカ王国のころと違い、適正な割合を算出なさり、わたしに命令して徴収させるのです!手が回らないとわたしめが進言すると、さらってきた人間の中から適性のあるものを選び、わたしの部下として働かせているのです!!」
「?なんかちょいちょい、風向きが変だぞ、ヤギハシ」
「あろうことか、国をこえて、逃げてきた人間も受け入れて、『しもべ』になさるのです。税の徴収などもするので、『しもべ』の識字率100パーセントです。嘆かわしい。さらに簡単な計算などの教育も施しー」
「それは、つまり」
「はい、恐ろしいことです。悪魔が人助けなんて」
「まてまてまて!!血なまぐさい話は、どうしたのだ」
「ああ、そちらですか?スオカ王国なき後の宗主国と対立」
「血なまぐさいことになりそうだあな」
「アスタロト様と宗主国との間で緊急会談がひらかれました。宗主国がスオカ王国からうやむやのうちに巻き上げた土地は、大部分をアスタロト様の土地として国境線がひかれました」
「?」
「しょうがないんです。小悪魔マリー奥様は、あの宗主国に対して、神の知り合いだから、お前たちの教義の穴という穴、矛盾という矛盾を突きまくり、宗教概念をガタガタにするぞと脅したのです。宗主国側も後ろ暗い矛盾点を抱えていたのか、脅されるがままでした。そもそも元豪商とはいえ、へスぺリデス家の開祖の者は、海賊をなりわいにしていたとか。もう、血筋が!荒っぽいんです!お上品なアスタロト様と違って!粗野なんです!爵位もない平民の出身ですから!」
「!!」
「そうそう、アスタロト様の弟君のジロウ様が、宗主国から助けたへスぺリデス家の人たちも、まともな者たちではありませんでした」
「どうした?今度こそ、悪魔っぽいはなしか!?」
「どうでしょうか?ですが、助けてっもらっておきながら、自分たちの船で自由な生き方を選択されて」
「なんだ、また拍子抜けな話か?」
「今や、対岸の孤島に住み着き、海で他人のものも自分のものにする自由気ままな海賊ライフを過ごしておいでです」
「海賊?あの小悪魔マリー奥様の親族がか!?」
「はい、そうでございます」
「ハァー、驚いたな。ヤギハシ!アスタロトの嫁は、元海賊の生まれで、人間のころから悪魔を魅了し、神おも手なづけ、天使から好んで悪魔になったっていうのか!?」
「はい、そうでございます。ルシファー様」
「恐ろしいなぁ、あの小悪魔奥様!気に入ったぞ!!」
ヤギハシの目覚ましい活躍により、我が新妻マリーの本当の名を口にするものは、ほとんどいない。
人間界、天界、悪魔界、いづれでも、数々の物騒な異名をほしいままにしている。
だが、本当に恐ろしいのは、マリーとともに暮らすようになって、毎日が楽しく、幸せなうえ、その一日が永遠に続いていくことを、信じて疑わない我自身の心境の変化だ。
我は、悪魔界の四天王の一角を担ってきた。
だがそう遠くない未来、マリーの方が世界中で語り継がれる大悪魔として、その名をとどろかせていることになるだろう。
『大悪魔インキュバス』
人間、神、悪魔、ありとあらゆる者をその言動、姿で魅了し、支配する。
だが、その本当の名を知るものは、悪魔侯爵アスタロト家につらなる者と
妻の名誉のためにその真の名を記す。
マリー・アスタロト。
世界を悪魔の力で、幸せにする野望をもつおそろしい悪魔の名だ。
<完>
狙われた花嫁~初夜に遺産目当てで無残に殺される死亡エンドのデスループから抜け出すために悪魔に魂を売ります~ 岡田 悠 @you-okada
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