第41話 (最終話)小悪魔ちゃん爆誕祭


  華々しい結婚式を執りおこなう準備は、急ピッチで進められていた。


悪魔界のみならず、天上界でも、人間界でも大変なうわさになった。


わたしには、たくさんのが与えられた。


どれもこれも、濃い特色を持つせいか、気づくとわたしの名前を口にするのは、デスピオ火山城にいる者だけになった。


その中でも、わたしの名を口にするだけで、わたしを多幸感で満たしてくれる方は、タロウ・アスタロト、ただ一人だ。


人間界では、悪魔になって道を踏み外したと思われがちだが、わたしは、悪魔になってからのほうが、幸せを感じられている。


こうして、幸せな結婚を、愛し、愛される方とできて、生きていけるのは、悪魔になったおかげだと実感している。


もう間もなく最良の日を迎えられることを、夫になってくれたアスタロトに感謝している。


 結婚式の場所は、デスピオ火山城の中でおこなわれる。


ここでなければ、スゴイ悪魔を迎えいれることはできなからだ。


スペースは問題ない。


異次元につなげて、無限にお城は広くなる。


ガーデンパーティーが希望でしたが、アスタロトにいいふくめられ、宮殿内のパーティーになった。


スゴイ悪魔の来賓客を人間に近い屋外にいさせることの方が、危険なことだからだ。


わたしは、近隣の村々に悪影響が出ないよう、配慮した。


そのために、ある作戦を考え出した。


題して、


ーどっからどう見ても人間にしか見えない悪魔の手先を使って、近隣の村に注意を呼びかけよう~美男美女なら、直よし~ー


です!!


完璧と思われていたわたしの作戦名を聞いた途端、アスタロトは、はぁ~と壮大なため息をついた。


「先に、その作戦とやらの内容を聞こう。聞きたくないが、聞かなければならないことはたくさんあるが、一番気になることは、恐ろしいので最後に聞くとしよう」


「ハイ!説明いたします!どっからどう見ても人間にしか見えない、悪魔の手先をつかい、近隣の村人にそれとなく悪魔がお祭り騒ぎする話を流してもらいます。そのことで、近隣の村々に注意喚起ができ、悪魔にとっても、人間にとっても、両者にとって円滑かつ、安全で楽しいひと時をすごせます」


「聞くだけだと、とえもいい話にしか聞こえないが……」


「いい話でしかありませんわ」


「マリーのその前のめりの姿勢が怖いのだ」


「大丈夫ですわ」


「さて、問題なのは、ここからだ」


「はい?問題などどこにもありませんが」


アスタロトの雰囲気ががらりと変わった。


提案書に書き添えた、絵のことだろうか?


絵のふたりの男女が、あのふたりを描いたものだと気づかれたのでしょうか?


「ダメだ!!却下だ、マリー」


出たぁ~。過干渉の父性爆発からの心配性発動中のアスタロト。


「聞こえているぞマリー。駄目だからな」


「どうしてですか?」


「この絵の男女は、オイジュスとエリスじゃないのか?」


「はい!そうです。我ながら」


「絵の上手い下手を言っているのではない、絵は上手だが」


「まぁ、嬉しい。では、なにが問題ですか?」


「こいつらは、今地獄にいる。それに、自分を殺してきた連中だぞ!どうして傍においておける!?」


「大丈夫よ。ふたりとも、神様から結婚祝いになんでもくれるというから、二人を地獄から、送ってもらえるの」


「郵便物じゃるまいし。そうではなくて」


「大丈夫よ。ふたりとも、地獄の悪魔さんたちのおかげで、すっかり性根をいれかえたの」


「そんなことを、信じているのか?」


「ハイ!それに、今は、わたくしも立派な悪魔として自信と力がみなぎっています!」


アスタロトは、麗しいかんばせに、眉根を寄せている。


皺になっちゃうんじゃないかしらと心配になる。


「皺の心配をしてくれるなら、少しは、悪魔らしく振舞ってくれ」


「しょうがないの、だってわたくし、皆さんから『小悪魔ちゃん』と呼ばれていますから」


ーハァ~。色っぽい方の意味じゃないんだよ、マリーの場合。『微笑ましい』から悪魔に「小」の字がついてるんだー


「やですわ。可愛いなんて」


ー……ー


「どうして、無心になって無言になるの?」


最近のアスタロトは、わたしにテレパシーで考えを読まれてリしないように無心になることで、わたしのテレパシーを防ぐという技を習得された。


どこかの高僧に弟子入りしたらしい。


なんて勤勉な悪魔!!


「大丈夫よ、何かあっても死なないし」


「そうゆうことではない!」


「あなたがいらっしゃるのだから、なんにも心配してません」


「マリー」


「だから、お願いです。アスタロト。神様からのプレゼントにオイジュスとエリスをもらっても、いいでしょう?」


「犬猫とは違うんだぞ」


「大丈夫よ。わたくし、大人ですもの、ちゃんと面倒みれます」


「ふたりとも人間なのだから、自分のことは自分でできるだろう」


「ちゃんと、躾は、しなおされてるから安心よ」


「……」


「ねぇ、お願いだから、いいでしょう?」


「終生手元におくことになるぞ」


「大丈夫。ちゃんと一生そうするから」


ーシンシアさんが、怒ってるんだよなぁ、この案件、どうしたものだろうか?ー


「忘れていました。シンシアちゃんは、なぜでしょうか、あのふたりが嫌いなんですよね?」


アスタロト様は、フゥーと深いため息をついてから、にっこり笑顔でこう言った。


「それならば、シンシアさんに許可をもらいなさい。そうだ!そうしなさいマリー」


「わかったわ!!」


これ以降、わたしに関わる面倒ごとの判断をアスタロト様は、シンシアちゃんに丸投げすることになる。


そのため、シンシアちゃんは、事実上このデスピオ火山城の実権を掌握する女帝となってゆく。


しかしそれは、また別のお話。


話を戻すと、ここから、オイジュスとエリスを引き取りたいわたしVSあのふたりだけは、絶対ここに入れたくないシンシアちゃんとの長くない攻防が始まる。


「もう!マリー様は、悪魔になったのに、『人がよすぎ』ですよ!!大方、あのふたりが、かわいそうだからと、気にしていらしたんでしょう?」


「うっ、うん。それもある」


「それしかないでしょう!?」


「だって、ふたりとも、自由に生きたいだけだっと思うのよ。王家の人間だけど、力はないし、お金もあんまりだし、|姉弟だから、ほんとはねぇ、駄目じゃない……その?なんていうか」


「悪魔が照れないでください!もう!しょうがないんですね」


「えっ!?いいの?」


「ちゃんと、ご自身で面倒見てくださいね」


「うんうん!シンシアちゃんのお手伝いもさせるから!」


「元王太子と王女ですよ、期待しないでおきます」


こうして、シンシアちゃんと大きくもめることなく、オイジュスとエリスもペット兼お手伝いとしてともに暮らすことになった。


なんの役に立つかは、不明だけれど、わたしは、みんなと暮らせて、幸せです。


エリス王女とわたしの差は、ごくわずかでしかなかった。


そのわずかな差に、苦しみ、人の道を踏み外したエリス。


なら、わたしも同じだ。


だって、わたしは、悪魔になったのだから。


そうしなければ、越えていくことができない何かを、わたしとエリスは抱えていたのだ。


 こんなわたしのことを人は、『小悪魔ちゃん』と呼ぶ。


そして今日という日は、小悪魔ちゃんが、爆誕した記念すべき日になるのだ。


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