第40話 わたしと結婚なさい
再び、わたしの意識がもどった。
またも変わらず、部屋のベッドに横たわっていると、今度は直ぐにわかった。
デジャビュー?
夢か?
いや窓の外が常夜だった。
シンシアちゃんが、慌てて駆け寄ってきた。
「マリー様!お加減は、いかがですか?」
「いま、何時?」
「ええと、夜の7時です。でも、この前から三日はたっています」
「三日も!?」
三日間も食べないなんて、痛恨の極み!
「すぐ、アスタロト様を呼んでまいります」
「その前に」
グルキュュュュウ~。
「フフ、ハイ。何かお持ちしますね」
シンシアちゃん、テレパシーつかるようになったじゃない。
自室のドアが、開いた。
「その必要はない!」
「アスタロト様!」
起き抜けのアスタロト様は、
眩しい過ぎる。
「起きる前から、そなたの中の獣の唸り声がすごくて、かなわなかった」
「まぁ?それはきっと、わたくしの中の獣が」
「ごまかす気満々だな」
「おい!マリー様!サンドイッチだ!食えるかバカヤロー?」
いつものゴブリンシェフの勢いがない。
シェフは、彼なりに、心配してくれていたのだろう。
「頂くわ?あら、これっぽち!?」
「いきなり食ったら、体に悪い!悪魔にこんな
銀の足つきトレーがベッドの上に置かれた。
トレーには、コンソメスープとサンドイッチ、
「まぁ、うれしい!!チキンソテーとレタスとチーズのサンドイッチ、大好き!」
「ほら見ろバカヤロー!アスタロト様!!オレの言ったとおりだったろう!オレの方がよっぽどマリー様の好みを知っているんだバカヤロー!!」
「それは……すまなかったな、シェフ」
アスタロト様は、視線でゴブリンシェフを射ころすいきおいだ。
「こっコイツが、リゾットなんかで満足する玉か?バカやろ……」
「いつかの日の淑女だったはるか昔のマリーと、勘違いしたらしい」
シンシアちゃんが、不穏な空気を察知して空気をかえてくれた。
「さぁさぁ、マリー様、あわてず、よく噛んで、めしあがってください。今日は、私がお茶をいれさせていただきます」
「フ~、ご馳走様でした」
「ご馳走様ってもっとよく噛んでくえバカヤロー」
銀のトレーを下げてくれるゴブリンシェフから苦言を呈されるなんて、悪魔にとって
こんな量、3日間の断食を強いられていたわたしにとっては、造作もない。
「マリー。このまま、話をしても大丈夫か?」
「ええ」
「君は魂の契約で、望み通り悪魔になった。ここまではいいか?」
「ええ」
「悪魔になり、魂の限界、いや、死の概念のない世界へきたということだ」
「不死、ですね?」
「ああ、そうだ。だから、これからは、ひとりの悪魔として自由に生きていける」
「自由に?」
「そうだ、あなたの思うがままだ」
「なら」
わたしは、アスタロト様にむきなおった。
「アスタロト様とわたしは同等ですか?」
「ああ、無論だ」
「ならば、アスタロト、わたくしと結婚なさい」
「?」
「責任もって、結婚しなさい」
「せっ、責任?」
「あら、あなたは、悪魔初心者のかよわい少女を外に放り出すつもり?」
「初心じゃないだろう!?」
アスタロト様の白皙の眉根が悩ましげに、よせられた。
わたしは、調子を取り戻した。
「あら、前は悪魔じゃなかったんでしょう?右も左もわからないようなわたくしのこと騙したくせに!なんて、ひどい言いざまかしら!」
「騙したわけではない!」
「だって、悪魔だから、死なないとおもって」
「不死になったなどと、ひとことも言ってないぞ!」
「そー思うわよ。こちらは、素人なんだから」
「難癖をつけるな!それに、そのように言う者は、かよわくなんかないだろう!!」
「じゃ、わかりました。わたくしは、かよわくない。でも、結婚は承諾するんですね!!」
「いや、簡単に決めるな!!」
「なによ~、いいじゃない。ケチ。なっが~い、悠久(ゆうきゅう)の時の中で一回くらいしてもいいじゃない、結婚!?」
「したことない前提か!?失礼だぞ、マリー」
「だって、ヤギハシさんが」
「ヤギハシ直ぐ、こい。今すぐだ!」
「アスタロト様はよりどりみどり過ぎて、
瞬間移動で呼びつけられたヤギハシさんは、主が満足する答えを口にした。
「でも、今は未婚でしょ?」
「はい。マリー様」
ヤギハシさんは、機械仕掛けの人形のように、感情をなくしてしまったかのよな口ぶりだ。
「じゃ、別に問題ないわね」
「われの意志は?」
「若い子と結婚できるのよ、わたくし一応17歳です!」
「人間ならな」
アスタロト様のテンションがだだ下がりだ。
「?」
「今は、マリーは悪魔だろうが」
「悪魔になってまだ0歳」
さすがに、幼児趣味過ぎるかしら?
危ないわね。
「危なくないし、屁理屈をこねるな」
「いやなの?」
「そっ、それは……」
「天国に行く前に愛してるって言ってたもん」
白皙の美貌を真っ赤かにして、アスタロト様が怒っている。
アスタロト様は、悪魔のわりに、どうにも真面目すぎる。
「マリー、そういうセンシティブなことを家の者の前ではっきり言うわないでくれないか?」
「あら!?いいじゃない!?」
「よくない!!」
「だってわたし、悪魔だから」
「負けですね。アスタロト様……」
「わたくしの言うこときかないと、あの手この手の悪魔の力を使って、言うこときかせるんだから」
「我の意志は、無視か……」
「そうよ。だって、わたくしは、アスタロトの気持ちがテレパシーでわかるし、前に、あなたは、口にしてしまったわ。わたくしへの本心を、目の前で!!だから、こうなったら、諦めて、わたしを花嫁にして、永遠に幸せに生きるのよ!!」
悪魔になれたわたしは、なんだか無敵だ。
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