第429話 性格
「……味方、ですか?」
俺は首を傾げる
ここは姫川家なのだから、そんなものたくさんいるだろうに、と思ったからだ。
しかし考えてみると、この家から関東の学校にまで、ある種、厄介払いのように飛ばされている姫川会長の身の上を考えると……実家の中にあってすら、味方、とはっきり言える相手はほとんどいないのかもしれない。
そんなことを考える俺に、姫川会長は自嘲するように言う。
「ええ、味方。私のことを……ここに、姫川家にいる間だけ、裏切らない味方。だめかしら?」
「……というか、ここにいる間だけでいいのですか?」
こういうことは、普通、一生味方になってくれとかそういう話であるのが普通ではないだろうか。
一生が重すぎるにしても、基本的にはとかそれなりの期間とか。
それなのに、ここにいる間だけでいいという。
俺が……というか、佐藤太郎がここにいる期間はそれほど長くないとわかっているというのにだ。
あくまでも、呪術師佐藤太郎は、土御門家からの補助人員に過ぎないからな。
だから不思議だった。
そんな俺に姫川会長は言う。
「ええ、それで構わないわ」
「なぜ?」
「土御門家から来てくれた人たちが戻る頃には……多分、趨勢が決まってるでしょうからね。その時にはもう、味方がどうこう言ったってしょうがなくなっていると思うから」
「うーん?」
どういうことだろう。
姫川会長は続ける。
「貴方も少しくらいどこかで聞いてるかもしれないけど……今、姫川家では、後継者争いで忙しくてね。人手不足なのは、この間の大妖退治での地力低下以外に、そこにも原因があるの」
「少しだけ聞きましたが……」
実際には結構聞いた、ということになるだろう。
紫乃から詳しくだ。
ただし、それでも人間関係の話だから、そればかりは本人たちの近くで色々と観察してみないとはっきりしないということで来ている。
そんなこと、いきなり言うわけにはいかないけどな。
まだ俺は佐藤太郎であるのだから。
「やっぱり、外にも漏れてるのね……」
「ええと……葵様は、後継者になられたいのですか?」
「何よ、おかしいと思うの?」
「いいえ、そう言うわけではないのですが……こうして話してみるに、あまりそういった地位にこだわるようなタイプには思えないもので……」
ここで話したことだけじゃなくて、もちろん学校での彼女の行動とか見てもな。
一見、会長の地位にこだわっていたように見えるが、咲耶に負けたらそれすら素直に譲り渡そうとするようなところがあった。
後継者の地位だって似たようなもので、そういう権力を意味なく求めるようなタイプではそもそもないと思う。
ある種のカリスマ性というか、なんか助けたくなるようなところはあるから、向いているとは思うけどな。
なんだかんだ、俺も咲耶も龍輝も、生徒会ではこの人に力を貸しているわけで。
そんな俺に姫川会長は微笑んで言う。
「言うじゃない。少ししか話してないのに、そんなこと分かるの?」
「さっぱりした性格の人だなとは思いますよ。好ましいです」
「こ、好ましいって……その……ありがと」
「いえいえ。それで、そんな葵様が、どうして後継者の地位を目指されるのですか?」
「それはね……」
落ちこぼれ気術士は転生して最強へと昇り詰める 湖水 鏡月 @murou
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