第428話 相談

「……太郎! それはこちらへ! あと、そこにある荷物は奥の間まで持っていってくれ!」


「はい!」


 姫川家の先輩呪術師にそう指示されて、俺は荷物を運ぶ。

 土御門家から派遣されたとはいえ、年齢的に一番下っ端にあたることから、やらされるのはほぼ雑用である。

 といっても、別にいじめられているとかいうわけではなく、本当に純粋に人手が足りないようだ。

 俺以外の、姫川家に元からいる呪術師たちの方がよほど重労働じみたことをやっている。

 中庭で巨大な石を運んで儀式用の舞台を整えるとか、そういうのをだ。

 俺がやってるのはせいぜいが、箱に入ってる荷物を運ぶくらいだからな。

 初日だから楽な仕事を回してやろう、みたいな配慮があるのかもしれない。

 ……割といい職場だな。

 呪家というのはもっと陰湿極まりないところかと思っていたが……勘違いだったのかも。


「……あ、それはこっちに……ええと、あんた、太郎って言ったっけ?」


 奥の間の前に辿り着くと、そう話しかけられたので振り向く。

 するとそこには、言わずと知れた我らが会長、姫川葵の姿があった。

 学校にいる時とは異なり、制服姿ではなく、着物姿なので新鮮だ。

 こう見ると、古くから続く旧家のお嬢様然としたところが出てくる。

 元々、顔立ちもスタイルもかなり整っているタイプだからな。

 ただ単純に態度と性格が子供っぽいだけで。

 実力的にも優秀な人ではあるが……普段は比べる相手が悪いだけだ。

 

「ええ、そうですが、なんでしょうか。お嬢様」


 俺がそう返答すると、姫川会長は言う。


「あんた、歳も近いし別にそんな丁寧に喋んなくていいわよ」


「いえ、そういうわけには……」


「いいのよ。別に。この家の子供って言っても、どうせ誰も私が後を継ぐなんて思ってないだろうから、怒られたりはしないわ」


 ……また随分と世知辛いことを言うな。

 その表情にはどこか、諦めたような、悲観したような感じがあった。

 学校では見ない弱気なところだな。

 意外である。

 思わず俺は尋ねる。


「そうなのですか?」


「そうよ。そうね……ちょっとこっちに来なさい」


 そう言って姫川会長は俺を近くの部屋に呼び込む。

 そして部屋に入ってから、廊下をキョロキョロと見た後、障子戸を閉めると、静かに防音の呪術を発動させた。

 

「……ええと?」


 俺が首を傾げると、姫川会長は笑って、


「ちょっと内緒話をしようと思ってね。だめかしら?」


 そう言った。

 俺もこれはちょうどいいかも、と思って頷く。

 実際、さっさと正体をバラした方が話が早そうだというのがあった。

 しかしタイミングが中々なかった。

 スマホのメールとかメッセとかでも良かったが、そういうのは周囲にうっかり見られる可能性があるから。

 電話も、盗聴の危険がある。

 だから直接会って、と思っていたのだ。

 姫川会長は言う。


「そう、良かったわ。その……でもその代わりお願いがあって」


「お願いですか?」


「ええ……少しでいいの。この家にいる間、私の味方になってくれないかしら?」

 

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