第427話 姫川家

「……ここが姫川家か。結構大きいな……」


 姫川家正門に辿り着いた俺は、思わずそう呟く。

 少なくとも高森家本家よりはデカい。

 高森家はそもそも北御門でも下位の家門だったから、当然というか仕方がないところがあるんだけどな。

 最近は中位の家門くらいになっているとはいえ、実家にいきなり手を入れるというわけにも行かない。

 増築するにしたって色々と気術がかかっているため、そう簡単に普請出来ないのだ。

 両親も忙しいし、そのままでも困っているわけでもない。

 実家建物を大きくして使用人だけ増やしても仕方がないしな。

 高森家に属する気術士を増やすのならば意味があるが、今のところはそんな感じでもないし。

 あれで十分なのである。

  

 姫川家はその点、高森家よりもずっと多くの人員を抱えているからこそのこの規模なのだろう。

 組織の作り方の違いもあるな。

 高森家は企業とかそういう外部に拠点を構える形で気術士を抱えているが、姫川家はあくまでも家に呪術師を属させるような形をとっているから。

 関東の方がどちらかというと近代的な組織構造をしているのだ。

 それでも、北御門家とか四大家になると、そもそも家そのものに人を帰属させているのだが。

 程度問題かもしれないな……。


 そして、俺たちのリーダーである北村が、正門を叩くと扉がゆっくりと開き、そこから数人の人物が現れる。

 一人は重蔵より少し若いかな、くらいの老人。

 そしてそれに加えて三人の子供だ。

 子供といっても、一人は俺の二つ上、そしてもう一人はさらに上だが。

 最後の一人だけは十歳くらい……つまり彼らは、姫川家の後継者争いをしているという三人である。

 当然一人は見覚えがあり、姫川会長だな。

 ただ、俺の顔に気づいた様子はなかった。

 理由は簡単で、俺が自分の容姿と認識をいじっているからだ。

 他人から見ても、俺が武尊であることは分からない。

 こういった術は結構があるが、それなりの術者に気づかれる、というものが多いが、俺のは仙術を混ぜてある特製のもので、例え相手が術士であっても気付かれる心配は少ない。

 ゼロではないのは、俺の実力不足だが……。

 実際、正門から現れた老人……姫川家の現当主である、姫川一徹がこちらをふっと見つめ、一瞬首を傾げた。

 しかしすぐに首を横に振り、北村に、


「良くいらっしゃった。ありがたい……見るに、かなりの実力者たちを連れてきてくれたようで……。あぁ、こちらの三人は、次期当主候補だ。ほら、挨拶しなさい」


 そう言った。

 どうやら俺については気付かれないで済んだみたいだな。

 

「長男の姫川紫苑です」


「長女の姫川葵です」


「次女の姫川桜です」


 三人はそういって、シンプルに挨拶した。

 ただ顔色は三者三様だな。

 紫苑は張り付いたような笑顔であり、姫川会長は硬い表情だ。

 桜は……なんだろうな、どこか困惑している感じというか、不安そうというか。

 三人が何を思っているのかは、分からない。

 ただ、これからしっかり探っていかねば。

 そう思ったのだった。

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