第426話 潜り込む
「さて、お前たちにはこれから京都各地の名家へ向かってもらう!」
土御門家の広い中庭でそう言ったのは、土御門家の高位呪術師の一人だ。
彼の前には百人ほどの呪術師が並んでいて、その実力は様々だが、全員の共通点はこれから、京都各地に存在する呪家へと派遣されるということだろう。
なぜかといえばそれは先日の大妖退治で人手不足になっている家が数多くあるため、その支援のためだ。
死者はほとんど出なかったのは確かなのだが、上級妖魔が多数出現して破壊したものがたくさんある。
またそのために力を振り絞ったがために、呪術師としてまともに行動できなくなってしまっている者も少なくない。
土御門家のような、京都の中でも大家となる呪家は、こういった時にそのように動くことが半ば義務になっているわけだ。
これは四大家も同じだな。
小さな家を含めて取りまとめるのはもちろん、足りないところに人を派遣するのは重要な仕事の一つになる。
そして、俺はそんな呪術師たちの一人として姫川家に潜り込ませてもらうことになった。
姫川家は京都の呪家の中でもそれなりの家であるが、土御門家には遠く及ばないほどの規模でしかない。
というか、土御門家ほど大きな家は数えるほどしかない。
他に二つか三つ、あるかないか、というくらいらしい。
そういった家を除くと上位の家であり、歴史も長く、また力もあるとは言うのだが……。
まぁそれだけの家でなければ、後継者争いなどで極端に揉めることはないか。
紫乃から姫川家のことは様々聞いたのだが、残念ながらというべきか、やはり実際に姫川家に行かなければ分からないことが沢山ありそうだ。
大雑把には、後継者争いで兄妹三人が揉めている、ということだが、それぞれがいったい何を考えているかということはやはり本人に聞かなければはっきりしない。
姫川会長はやる気満々なイメージがあるが……。
妹の桜は無邪気ないい子、という感じらしい。
ただ長男についてはなんとも言えない。
才能はかなりのものがあるとはいうし、理知的だとは聞いたが、そのくらいだ。
「……佐藤太郎、お前も姫川家だな。よし、ではこちらへ来い」
そう言ったのは姫川家へ派遣される呪術師を統括する呪術師だ。
とは言え、彼は事情を知っている。
紫乃から直接伝えられているからだ。
ちなみに、佐藤太郎とは俺の偽名である。
偽名ですと言わんばかりの名前だが、それだけにどこにいてもおかしくない名前でもある。
移動は小さめのバスだな。
まぁ、六人くらいでの移動だしちょうどいいか。
乗用車で厳しいのはそれなりに機材とか支援品とかも積んでいくからだ。
「はい!」
と頷いて俺が近づくと、その呪術師……
「可能な限り、武尊様だとバレぬように努力しますが、どうしようもない場合はどうにか誤魔化していただけますか?」
「……迷惑をかけてすまないな。わかった」
そう言うと、北村は、
「いえいえ、京都の英雄の頼みなれば、お安い御用です。では……参りましょう」
そう言って微笑んだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます