第425話 姫川家の事情

「それで、姫川家についてですけど、そもそもどれくらいのことを知っていますか?」


 紫乃が尋ねてきたので、俺は少し考えてから答える。


「さっき少し話したけど、結局、姫川葵の実家である……くらいしか知らないんだよな。そしてあの人がなんだか必死になるような問題が、あるのかもしれないとか」


「なるほど。まぁ、呪家は基本的に家の内情を他所に明かすことは少ないですからね。本家分家の関係でもない限り。それでも、諜報を得意としているところもあって、バレることはバレるわけですが……」


「つまり、土御門家は姫川家の問題について何か知っていることがある?」


「そういうことです。というか、土御門家が知らないことの方が少ないですよ。少なくとも、この京都に置いては」


 そう言って妖しく笑う紫乃には、その年齢に似合わない恐ろしさが宿っているような気がした。

 この年齢でも、やはり呪術師というわけか。

 年相応の可愛いところもあるとは思うが、その本質は呪術師だな。

 ともあれ、俺は尋ねる。


「怖い話だが……それで、どういう問題が姫川家に?」


「そうですね……まぁ、簡単に言いますと、あの家は後継者問題で揉めているのです。長女である姫川葵、長男である姫川紫苑、そして次女である姫川桜の三人でね」


 ……姫川会長、兄妹がいたのか。

 あの感じというか、結構な唯我独尊タイプだから一人っ子で好き勝手やっているものかと思っていたが。

 でも考えてみれば、そういう立場ならわざわざ東京の学校に押し込まれるようなことはないか。

 言い方は悪いが、スペアがいるからそういうことも起こる、というわけだ。

 三人のうち、誰がスペアなのかは分からないが。

 この辺りは気術家も呪家も厳しいところだな。

 家の存続のために揉めざるを得ない。

 北御門や東雲は最近はそういう揉め事が起こっていないが、西園寺と南雲は景子と慎司の代ですら揉めた。

 そしてその争いに勝ち残ったのが、あの二人だ。

 血で血を洗う場面が、術士の家には普通に起こり得る。


「ちなみにだが、一番、後継に近いのは誰になるんだ? やっぱり長男か?」


 俺が尋ねると、紫乃は答える。


「順当に行けばそのように考えるべきでしょうが、そこで問題になるのが次女の桜の才能ですね。未だ十歳だそうですが……それでいて、その才能は他の二人を優に凌駕すると見られているとか」


「それで揉めてるわけか」


「ええ。とはいえ、本人はそのような争いごとを好むような性格ではないと思いますが……」


「ってことは会ったことがあるのか?」


「はい。何度も。姫川家は名家ですからね。パーティーなどに良く出席していますよ。土御門ともそれなりに交流があります。その中で、桜とも話したことがありますが、なんというか、年相応の可愛らしい子です。呪術師に向いているかと言うと、そういう暗さはありませんね」


「別に暗くなくても呪術師は出来るだろう」


「どうにも権謀術数を張り巡らせる必要があることが多いですから。気術士に比べて。ですけど、まぁそれもそうですね」

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