爪痕と人形

「………」


「…………」


―無言の見つめあい。


 次の日、氷華が戻って来た俺の住んでいるマンションの一室は張り詰めた空気を満たしていた。


 片や、何が起きてるか現状理解に苦しむ無表情系絶世の美少女。

―本心(バレたのでは?)


 片や、独占欲や疑心を抱いてしまいジレンマに押しつぶされかけている男を装う男。

―本心(君を守るために)


 そう、お互いに特大の爆弾を抱え込んでいる状態なのであった。


―――――――――――――――――――――――


視点・そうや


 俺は悩んでいた。


 服装は顔には現れない表情を見せてくれるということで氷華のコーデを見てみたものの…

 コーデがベストマッチ過ぎて尊さを感じる


―って、何時もの氷華のコーデじゃね?


 いや…な?氷華に似合わない服が無さすぎて逆に分からないというかなんというか超難問!

 服にシワとかないしメイクも何時もの薄さだし、世界一可愛いのも毎日だし……見当たらないどころか惚れちゃう。 

 

 しかし、だ。普通なら氷華に疑心向けてもおかしくはないが信頼している為、ココを覗いているであろう何者かを騙す為に。

―だから三文芝居だが恥を忍んでくれ!


「…氷華、俺に隠してる事ない?」


「っ!……ない」


 ある。氷華の頭に過るのは盗撮(そうやに)、盗品(そうやに)、GPS(そうやに)、思い浮かぶものは多けれど全部が同程度にヤバイのである。

 そう、雪華の置き土産は精神的な爪痕と○○○○という氷華にとって最狂最悪な土産であった。


 二人はそれぞれの思惑のために無言の牽制を数秒する。そして、そうやが切りだした。


「ない…ね…俺と一緒にいない時とか男と会ってるの分かってるんだよ」


「違…う……アレ、は……アレは……」


 言い淀む氷華には理由があった。だって、言えるわけがない…

…『貴方を盗撮、盗聴してもらっていた』

……なんて!


 だが、分からない者からすると疑いが深まるばかりであろう発言であった。

 猛獣を前に震えながら『エサ持ってないです』というのと同義なのである。


 それも彼女にこっ酷く振られた経験を持つそうやに対して悪手であると氷華は判断した。


「なんでソコでつまるんだよ!俺がダメならちゃんと言ってくれよ…隠される事の方が辛いんだよ」


「だ、ダメじゃない!……けど…けど」


 けどである。言ッタら言ったでひかれたら終わりなのである。コレはれっきとした犯罪なのだから。


「けど…言ってくれないん…だよな」


「ち、違う!……言えないんじゃ…ない!」


「もう、いいだよ!俺には隠していたいんだろ…俺はお前が幸せなら何でもいい…だけど、今は一人にさせてくれ」


 今二人でいるのはつらい……隠し事をされるのは恋人として中々堪えるものだ。という演技をする。


だから……独りになりたい。―という悲壮な雰囲気を演出する。


「そう、や……ま、待って!……話す……話すけど、ひか…ないで……絶対」


 氷華はそうやの悲痛な顔を見て理解していた。


―独りにしたらヤバイかも!


 知っていた。姉が何も手を打たずに帰るわけが無いと。なら姉は何を狙っている?


―破局?

最初に目指すのはソコだろう。


 だけど違う。姉の狙いは違うところにあるはずだ私が何をしたところで気付かない所を突いてくる蛇女なのだから。


―隣で最後に立つ女

コレなら色々な対応がとれることだろうが…


「出てってくれ!」


 また考え込む氷華の目には俺は全然映ってない。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い-----------


―頼むから俺を、見てくれ…決まった、懇親演技だ


「いやっ…話す!……話を、きいて!」


「今は、独りで……っ!」


 その瞬間、口が塞がれていた。柔らかく淡いピンク色の氷華の唇によって。

氷華の目は俺を見ている。氷華が何を考えてたかどうとか、色々な聞きたいこととか胸が締め付けられて痛かったけど『消えた』。

…様に見せる

べ、別に動揺なんかしてないし…クッ、カワイイ…


「私は…そうやの事、邪魔だと思った事、ない!

だから…だから、私を突き放さないで」


 あの告白以来だ。氷華が悲痛な顔をしてしまっている。こんな顔にしてしまったのは…俺だ。


「っ、分かったから体を離してくれ…動き辛いだろ」


 何時も通り俺は心にも思ってないことを言ってしまう。向こうから来るのを期待してしまっている。

 

―また俺が突き放してしまっ


「やっ!」


「なっ…」


「今から…話す事、恥ずかしい……顔見ながら、話せないから…離れない」


 分かっていた。氷華が俺に騙すような事をしていないことを。あんまりにも、絶世の美少女と上手く行き過ぎて不安が爆発してしまっただけだ。

―コレが普通の反応…さぁ、折角引っ掻き回したのに残念だったな…出来るだけ焦ってくれ。



―大丈夫

―俺は『あの頃の俺』じゃない…今は、強い





―――――――――――――――――――――――

そうやが、氷華に対する愛情は異常。

 ですが…、果たして読者様方は誰を信用するのでしょうか?

…今回のキーワードは氷華の―(バレたのでは?)です!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る