最凶の姉

「ん〜♪やっぱ、そう君の作るお菓子は美味しいね

このシホォンケーキ、フワフワし過ぎ!お店レベルだよぉ!」


 俺は今…彼女、では無い彼女の姉に作り過ぎたシフォンケーキを押し付けていた……。


「ご粗末さまです。氷華と母さん以外に食べてもらうの久しぶりだから嬉しいよ」


 だって氷華は「…ん、美味」しか言わないし、母さんは「まぁまぁね。ココにブラックペッパー、ハバネロ、あおさを入れたら完璧ね」って、反応が普通じゃないのだ。

 その点、雪姉さんは作りがいのある人として最高評価をあげたいくらいだ。


「ご馳走様でした、と。

ホントに早速だけど、氷華と別れた方がいいと思うんだ……ホントに急でゴメンね?」


「雪姉どうしたの?別れろって……」


「あの子最近…というより今日も男の人と会ってるの。見なきゃ分からないよね?……ほらコレ」


 多分彼女からしたら本当の忠告なのだろう。俺はそういう感情の『機微』を読み取るのがうまいと自負しているからだ。


「……なっ」


 大人っぽい雪姉のスマホに写っていたのは他校の制服を着た好青年と楽しげに微笑む氷華だった。

それも写真は一枚ではなく、何枚も何枚も沢山出てきた。

 やはり氷華の写真の殆どの表情は緩みきっていた。俺といる時は見せない顔……


「氷華ちゃんラブのそう君は疑いたくないでしょうが…事実よ

信じられないと、まだ言うのなら納得のいくまで手伝うわ……私の妹が仕出かした事だもの」


「スミマセン。まだ…信じられないです。

取り敢えず調べるのは一人でさせてください」


「…そう」


 まずは氷華に直接聞いてみよう。あのストーカー行為までしていた氷華が俺を裏切るなんて想像もつかない。でも…


「ふふ、そう君みたいな彼氏欲しいわ…

こんなに信頼してくれるなんて愛しがいしかないし

何処までも溶かして私無しじゃ生きれない様に……

ねぇ、お姉ちゃんとイケナイ事しちゃわない?」


「……っ、冗談やめ」

「嘘、だと思う?」


 雪姉が俺の手を奪い、自身のタワワな胸に押し付けた。


「………!」


「お姉ちゃんね、そう君の事好きなのよ?

氷華ちゃんが好きになる前から、男の子としてね」


 俺の目を真っ直ぐに見ながら話す雪華姉さんの目は、揺らぐことのない決心をした目だった。


「………雪姉さん、俺は…付き合えませ「ダメ」

え?」


「今すぐ、答えを聞きたいい訳じゃないのよ

この件が解決した後にでも答えを聞かせてくれるかしら…氷華ちゃんが浮気してないって確証とれるまで」


「な、なんで」


「その間に私を知ってもらいたいもの

私も女であり恋愛対象であることを、ね?」


 時が止まったかのように何処までも一途な思いは俺の心に響いた。だが…氷華以外は恋愛対象に…


―出来ない


 これは、何だ…気持ち悪い。思い出したくないヤメロヤメロヤメロヤメロ…もう、勘違いさせるな。


「言いたい事は言えたし、そろそろ家に帰るわ」


「あ、ああ」


「私が必要だったら何時でも言ってね」


 そして一匹の猫に見送られながら雪姉さんは立ち去っていった。


 俺と猫一匹になった空間で、俺は吐いた。

口内を満たしていた砂糖、シホォンケーキ…今日食べた全てを。


『ミャ』


 猫は主の異常な体調にパニックを起こし…立ち直ったそうやを一層パニックにさせるのであった。


その日の夜―


ある男は、また人格を切り替える。

一般男性みたいな反応―

女性に対する〇〇…による吐き気―


 今日演じた全てを……氷華を不幸にする全てを葬り去る為に。

…男は、自分には氷華さえいればいいと信じて明日もまた、演技を続けるのだろう。




―――――――――――――――――――――――

side:雪華


 彼女はベットに顔をうずめながら今日の成果に打ち震えていた。


「そう君ゴメンね?でもトラウマを乗り越えないと新しい恋は出来ない……そしてトラウマを克服させた後に傍に立っているのは『私』」


 そうやが重度のトラウマであることを短大で得た知識(精神医学)で炙り出し、克服させることで周りを意識させ、奪う。

 それが彼女の建てた計画であった。ソレは一歩間違えると一生治らない傷を負わせるかもしれない最狂の矛。


「全部私のモノ。アノ娘達にはゼェータイ譲ってなるもんですか……氷華ぁ、頑張ってねぇウフフフフフフフフフ」


 彼女は狂っていた。


 だが、危険な花は美しい……ソレを体現する彼女の容姿は何処までも可憐にさせていた。


「そう君……だぁい好き♡」




たとえ、ソレが狂気に満ちた顔だったとしても。



 それを監視する目か一つ。氷華の服についていた超小型カメラが捉え続けるのであった。




―――――――――――――――――――――――


 さて、謎が増えました!どれが真実で、どれが嘘なのか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る