妖しげな華
『ねぇ、何で一人なの?』
それが氷華に初めて喋りかけた言葉だった。
幼稚園の頃の氷華は周りの子達と違い、綺麗な容姿に無口無表情だったためハブにされていた。可愛い子をハブにするのは幼稚園のチュートリアルか!
腰辺りまで綺麗に伸ばされた漆黒の髪の毛に眠たげな大きな瞳の、それはもうトビキリ可愛い子だったよ。
俺はというと親の仕事事情で転入してきたもんだから心寂しくてボッチだった氷華にことある事に喋りに行っていた。
でも仲良くなるにつれて氷華は綺麗になっていった。俺も釣り合うように色々頑張ったけど…
―諦めてしまった
美容、運動、頭脳、将来の安定性…全てに必死で喰らいついていった。それにつれ彼女は、無口で俺と会話していてもそっぽ向くようになった。
1年なら慣れないからしゃあないかな?と思っていたが小学4年生から6年生の間でコッチを向いて喋ってくれる事すらなくなった。
もう、心はバキバキのボッキボッキに圧し折れた。
残ったのは淡い好意と今まで努力して勝ち取った資格だけだった。
―英検準一級の資格
英語喋れるってカッコよくね?って感じで…
―インターネット系の殆どの資格
インターネット関係ってカッコイイよね!って感じ
―陸上競技の世界優勝メダル達(チャイルド級)
子供の頃は足速いやつがモテる!!…モテた
―やっと軌道に乗った投資
現代は投資だ!……デイトレードは止めておけ…
―子役など役者全般
周りに自慢できるステータス!…ストレス
ホントはそんなの求めていなかったからか中学入るとともに殆ど努力をやめてしまった。高校まで続いているのは投資と美容に関する努力位だ。
そして高校一年の三学期、嘘告を受けた。その子はちょっとクラスに馴染めていなかったせいでハブられそうになっているのを見ていたから…
―なんとなく付き合った。
付き合うに連れて彼女は明るく愛嬌を振りまくようになり、遂にはクラス1番の美女になっていた。
俺も何かと好意を抱いてきていた時、好きな人が出来たとキッパリ告げられ、俺はフラれた。
それから氷華に久しぶりに再会し、氷華に好き好きアピールをされ、氷華に溶かされて氷華と付き合う事になった。
マジでこの2年間氷華しか出てこねぇ。
それで氷華とさっきまで、シテたっけ?
脳が少し覚醒し、俺の愛してやまない氷華に手を伸ばし触り心地を堪能する。
ふむ、柔らかい触り心地、フサフサな毛、プニプニな肉球…猫だな。
って、実家の白ちゃんじゃねぇか!
『みゃ〜お♪』
「またか……またお前なのかよ」
そう、コイツは俺の布団に潜る常習犯なのである。ココで氷華とシた日の朝、氷華を布団の隅に追いやり俺の真正面(ドアップ)で寝転がっていた嫉妬の強いヤツだ。
ちなみに白ちゃんは、ノルウェージャンフォレストキャットの普通に黒と白の混じったモフモフのカワイイネコである。(真っ白じゃない
名付けたのはお父さんだったが、普通に40歳のオジサンが『白ちゃん』って…流石に引いた。
『ミャ?』
まるで私何かしちゃった?とでも言わん限りアザトイ首傾げを披露してくる…カワイイ。
コレを拾った父さんや母さんに見せてくれたら白ちゃんを誑すなオーラを受けなくて済むのに……
コイツ、俺にしか懐かないしな。
そして10分位ボ〜としていると、盆休みで氷華とは三日前から別行動だから実家に帰って来ていた事を思い出した。
ちなみに、俺は投資で得たお金でソコソコのマンションで生活している。同棲生活は結婚してからまたやれば良いから、今は一人で生活しろって氷華のお義父さんと父さんに言われ(意味深)たからだ。
「そうやー!私達ちょっと遅くまで出掛けるから
冷蔵庫にあるオカズ、レンジで温めて食べておきなさい!」
「白ちゃんのお世話、しっかりしとけよ!」
「はーい」
俺の両親は四十代後半を過ぎても仲がよく、こうして俺が帰省している時は白のお世話を俺に任せ、お出掛けを楽しんでいるのだ。
『ミャオ……ミャオ』
「ん?引っ張るなって。分かった分かったご飯用意するから今起きるって」
『ミャオ〜♪』
朝の任務をクリア(白の餌やり)した俺は久しぶりに新企業に投資したりマフィンケーキを焼いたりと緩やかな朝の時間を満喫している。
夏の朝からクーラーの効いた部屋で好きなことを沢山するって最高だよね。
久しぶりに焼いたマフィンケーキを朝から一人で堪能したものの如何せん量が多すぎた。
どうしようか悩んでいるとナイスタイミングでインターホンが鳴った。よし、その人に押し付けようと決心したものの珍しい人だった。
「ん?雪華さん?」
『そうだよぉ。オジサンとオバサンが良いって言うから来ちゃった♪』
「今から開けるからちょい待ち」
『はぁ〜い』
パジャマから最低限の服に着替え、ドキマギしながら玄関を開けると、ソコには誰もいなかった。
「ワッ!」
「っ!……姉さん、怒るよ」
露出の多い大人っぽい服を着た雪華姉さんが無邪気な笑みを浮かべながら死角から抱き着いてきたのだ。
雪華姉さんは、二人きりで会う時はとにかくスキンシップが激しい……氷華に浮気だって思われたらどうしよってことが何度あったことか。
「もしかして意識しちゃった?氷華ちゃんという
彼女がいるのに悪い子ね♪
二人きりだし…悪い事、しちゃう?」
「はいはい、暑いし中に入ってから説教するよ」
「んもぅ、冗談だって分かってるくせにぃ…フフ」
そうして俺は、久しぶりに『実家』に雪華姉さんを上げるのであった。そう、雪華姉さんの顔が肉食獣のソレに変わってるともしらずに。
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今回は何のヒントもキーワードもなし!
安心して読んでほしい。
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