『彼女』

 俺達が付き合い初めて早一年が経とうとしていた。氷華と過ごすキャンパスライフは砂糖百グラムを水十グラムに無理やり溶かした位甘かった。


 そして俺等は映画を見にお出掛け、いや―デートをしている途中なのだ。


 氷華は、ダボダボのパーカーに短パン『ザ・萌袖コーデ!』の可愛い服装である。待ち合わせ場所に早く来ないと安心出来ない位ね。


「ん、……アノ女子、ソウヤノコト見てる…

…殺して、いい?」


 無表情で下から覗いてくる、くっそ可愛い。

だけどココで殺害を許してはならない…氷華は実際俺に告白してきた女子に、腹パン首締めをキメて病院送りにした前科が在るのだら。

 一時はガチの逮捕を危惧したほどた。


「ん〜、氷華があの時みたいに捕まったら会う時間少なくなるよ?俺はイヤだけど…」 

「ん、ジョーク…昨日映画で、見た…マイケル・ジョー○ン……我慢する、ギューして」


 俺は、無表情で殺す発言は流石に慣れないものの、こういった嫉妬の後の甘デレは万物を魅了する魅力があると思う。

 ちなみにギューの手加減はしてない……優しくギューしても緩々で愛を感じないのだそうだ。


 大学の中で一番可愛いと評判で俺と皆との対応の差が激しいがために俺に向くヘイトが半端ない。曰く俺以外は無口無表情淡白とのこと。


「…ギュー…早く」


「ほら、おいで」


「…んっ♪…」


 今日も彼女は可愛い。


 しかし至福の時間はどの物語でも長くは続かない定めだった。


 そしてこの出来事が全ての歯車を壊し、それが一人の少女によって計画されていた出来事だということを俺はまだ知らなかった。


「そう、や?そうやだよね!ねぇ何で私の目の前から居なくなったの?ねぇ?抱き着いてる奴、誰?まさか…彼女とか言わないよね!?」


 その声を俺は知っていた。

忘れるはずがない……多分、元カノ。

 多分氷華の言っていた俺を見ていた女だろう。だって氷華が睨んでた先から聞こえたもん……


 声がした方に振り返るとソコには俺が一生会いたくなかった、元恋人の由奈(ゆな)が立っていた。


 茶髪をポニーテールに纏め上げ、大人っぽいコーデに包まれた姿は、時間が止められていたかのように変わっていなかった。


―『俺と一緒にデートで選んだ服』


 だからあり得なかった。ココはあの地域から離れた映画館であり、居ないはずの存在でもある。

――あり得ない。


「そうや……誰?」

「元カノ、だ」


 その言葉を聞いた瞬間、氷華の抱き締める力が一際強くなったと思った瞬間、氷華が元カノに立ち塞がるように立っていた。


「ねぇ、私が元カノ?どういう事!私達は別れたわけじゃない。そうよ…、そう…あの後私が弁解するためにずっと探してたのに見つからなかった……だからホントの意味が伝わらなかった…

そう……でしょ?……そうや」


「っ、由奈、」

「私が、今の『彼女』……貴方がそうやを、

フッタ…自業自得、……名字読み禁止…バイバイ」


 氷華は話す間も与えず言い切り、俺の腕を引っ張ってココから離れようと歩き出した。


「また、失敗したのかな…ううん、今度は失敗しないし逃さない!」


 由奈の呟きが薄っすら聞こえたと思うと氷華とは逆の手を掴まれていた。

「ねぇ、そうや…二人で少し話さない?」


「っ!」

「っ!何、そうやの、手、掴んでるの!

…貴方は、もう他人……アバズレ、ババアは

お呼びじゃ、ないっ!」


「なっ……誰がアバズレよ!貴方こそねぇ!体くっつけ過ぎなのよ!」


 氷華は、公園の時のように声を荒らげて突き放すように、そして言い聞かせるように怒気を込めて言い放った。


 だが俺の角度からは、手や足が少しだけ震えているように見えた。


―だから


「フッたのはお前だし、もう2年も会ってなかったんだから他人も同然だ。もう…関わらないでくれ」


「っ!」

「…!」


 唖然とする由奈をその場に残し、今度は俺が氷華の腕を引き元カノの元から離れていった。


 これで良かったのだろうか?そんな疑問なんて浮かばないくらいスカッと言えた。俺はもう行動せずになすがままは懲り懲りだ。

 

―『氷華を幸せにする』

そのためなら俺は命さえ惜しくはない。

だから、どうか俺を『『捨てない』』でくれ。


 氷華の少し冷たくそして柔らかい手からは、いつの間にか震えが消え、恋人繋にすら変わっている。


「そう、や…そうや」

「……、ん?どうしたんだ」


「元カノが……可愛くて、氷華…捨てられる……

かと、思った……怖かった」

「ごめんな」


「でも、私が勝った……ご褒美…ちょう、だい」


「おう」


 そして俺達はいつもより長い包容を噛み締めるかのようにし続けた。氷華の顔が少しだが、朗らかに笑った姿を見れた俺は、いつしか『元カノ』の事など、頭に残っていなかった。


「計画、通り……アバズレ、精々引き立て役に

…なって…『死んで』♪」


 氷華は大好きな彼の胸の中で、小さく…そして邪悪に微笑むのであった。



―――――――――――――――――――――――


side:元カノ(由奈)



 私がそうやと出会ったのは高校一年の春の出来事だった。クラスののヒエラルキーが高いもの同士成り行きでね。

 でも、付き合う程仲が良かったかと言うとそうでも無かった。精々、クラスメイトかな?


 でもある時、私を含めた親友三人でテストの点数勝負で負けたら嘘告をして3ヶ月付き合い続けるというある種巫山戯た勝負をした。

……で、見事負けた。せめて相手は校内で一番優しそうな人にしたいということで『そうや』君に嘘告しオーケーを貰った。


 それからの三ヶ月は相性が良かったのか楽しい日々を過ごせていた。日々の楽しさと罪悪感で心の中は痛くてしょうが無かったけどね。


―こんな良い人を罰ゲームに巻き込んでしまった


―サプライズ誕生日パーティしたけど、楽しかったかな?


―フりたくないな。


 そんな思いは日に日に強くなっていった。


そして丁度三ヶ月経った日。

私は『友達』二人の前で彼をフッた。


 理由は、元『親友』……いや、友達の計画に気付いたからだ。このままだと『そうや』君が壊されると思った私は苦渋の決断を下した。


『ねぇ、そうや君。私達別れよっか。

私ね、付き合っている人がいるの…

マッチョで、金持ちで、アソコがとっても大きいの

そうや君とはいい経験になったよ

ちゃんとした、いい人が見つかると良いね

…アハハ』


『そ、そうか…今まで…ありがと』


 そして彼は足早に立ち去って行った。


『アイツ、ウチの由奈にガチになってたんだー

何か嘘告+三ヶ月付き合わせちゃってゴメンね』


…どの口が言ってる…


『謝る気無いでしょ?このクソアンポンタン!

由奈、コレでホントに終わっちゃって良いの?

由奈ってば付き合ってる途中から、ホントに好きになってたでしょ』


―その言葉にドキリとした。


 あぁ、私ホントに引くに引けないくらい好きになってしまってたんだってその時やっと理解した。


『なら、酷い事させちゃったのかな?由奈っちゴメンね』


『酷いどころか最低も良いところよ。私のいない間に勝手に設定詰め込むからこうなるのよ。

もう、バカもいいところよ。

兎に角追いかけて誤解を解かないと、ね?』


…そうだ、そうしないと…

…いやでも、今あったら『守れない』


『ウチの友達に見つけたら教えて貰える様に言っとくから探してきな!アイタッ!』


『貴方と由奈が悪いんだからアンタも探して来んのよ!由奈、行ってらっしゃい』


『う、うん』


 しかし、彼が見つかる事は無かった。

『元親友たち』の計画のピースになると思った私が隠蔽したからね。


 アノ日から彼は学校に登校せず、他校に転入したと聞いたはいいものの、何処の高校か教えて貰えず誤解が解けないまま高校卒業したのであった。


…だけど、コレでいい。彼は大きなトラウマを抱えただけで済んだのだから。

 でも、会いたい…そんな気持ちが考えれば考えるほど強くなり、『昔の変わらない服装』で色んな所を不審者じゃない程度に徘徊した。



―そして、会えた。

あの日から2年も経っていたけど見つけた。


…でも、彼の横には女が立っていた。


―いい人が見つかったんだ。


 そんな感想と共に、私の心の中はどこまでいっても醜かった。


 元々あそこに立っていたのは私なんだ。あのメスが立っていていい場所じゃない。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない、だって私が先に好きだったはずなのに私は、こんなに貴方の事が忘れられなかったのに!貴方の愛情なんてこんなチンケな女に盗られる位軽いものなの?貴方の…為にこんなに犠牲にしてきたのにどうして報われないの?


―ねぇ、答えてよ

私は…貴方がいないと生きていけない女なのよ

やっぱり、私はどこまでいってもクズで最低で…卑怯な人間だけど、もう逃げないから…アイツラはもういないし…ちゃんと『守れる』から。


―だから、私を置いて行かないで

もう二度と、この手は離さないから


――もう1度、私の手を取ってよ






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 1話〜10話は登場キャラの説明パートとなっておりますがヒントは既に8個程出ています!!20個辺りで気付いていただけると嬉しいです!

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