第2話 庭園レストランで

 最上階にあるブローマパラダイスは室内型の庭園のレストランだった。南国のものばかりが取り揃えていた。緑色の葉が光に当てられ、鮮やかになっている。花は赤や黄色、紫色など濃いものを選んでおり、華やかな演出をしてくれている。カラフルな鳥がいるが、これはロボットである。最新の機械技術も取り入れているという話はここから来ている。


「すっご」


 透明マントを外したウォルファは感嘆の声を出してしまうぐらいのものである。客層は富裕層に絞っており、煌びやかなドレスやスーツ姿の者が多い。思わず彼女は自分自身の姿を見る。平民そのものと言った形で、場に相応しくないことをすぐ理解した。奥に座っているカエウダーラと男は完璧に馴染んでいる。互いに手慣れているオーラが出ている。


「ここで食事となりますと何か考えがあってのことでしょうか」


 カエウダーラの声が聞こえたので、ウォルファは集中していく。


「……政略結婚というものは感情を求めない。それが理想だと僕は分かっています」


 男は静かに言った。意外だなとウォルファは感じた。金持ち特有のお見合い結婚は政略結婚と変わらない。メリットがあるからこそ、家と家が繋ぎ、より大きくなる。貴族制度がなくなったこの惑星は、家のビジネスのために家族を犠牲にすることもよくあることだ。


確かに金があるからこそ、生活が豊かだろう。責任があるからこそ、プレッシャーに圧されることもあるだろう。そして一部の人は自由に恋愛することすら出来ないことに嘆く。若ければ若い程、不特定多数の交流ネットワークでシャウトをする奴がいるほどだ。


「好きな方、いるんですね」

「はい。しかしその……認められていません」


 彼もその一人だった。見知らぬ誰かに恋をしている。彼の声を聞き、ウォルファは心を痛く感じた。


「彼女は素朴で優しくて。ナヴィンの一族の俺ではなく、ただのライラ―として見てくれます。共に過ごしたことで分かったことです。そりゃその。カエウダーラさんも素晴らしい方だと思いますよ」

「お上手ですね」


 ウォルファはカエウダーラの言葉に賛同した。確かにカエウダーラはお嬢様で高等教育を受けた身のため、持つ知識量は豊富であり、数字やデータに滅法強い。その辺りは褒めてもいいだろう。しかし、戦闘狂の部分があり、そこ褒めるかと思う時もあるぐらい、ややズレた人物でもある。また、率直に伝える性格でもあり、分かっていて行動する場面もあるため、ウォルファは結構翻弄されている。


「本当に思ったことですよ」


 ライラ―というカエウダーラとお付き合いしている男が慌てる。


「けどその彼女と共に歩みたいので……申し訳ないのですが」

「ええ。私もそれで構いません。あなたなりの謝罪と言ったところなのは、最初から分かっておりました」


 意外にもカエウダーラは最初からお見合い破棄を予想していた。


「それに破棄したいのはお互い様だったと思います。私自身、まだ若いので……もう少し自分の理想に近い方と共に歩みたいと思いまして」

「理想ですか」

「……少し場を離れます」

「分かりました。ですが料理来るまであと少しですので」

「ええ」


 カエウダーラが突然立ち上がった。徐々に距離が近づいてくる。ウォルファは慌てて逃げようとするが……時すでに遅し。ウォルファはガッツリとカエウダーラに手首を掴まれていた。グイっと引っ張られ、抱き着く形となる。さり気なく獣の耳を触っているカエウダーラである。


「ソーニャが企んで、あなたが来るだろうと思ってましたわ」


 彼女は嬉しそうにする。ウォルファは盛大にため息を吐く。


「やりたくなかったよ。ぶっちゃけ。で」

「で?」

「破棄したら面倒になるって言ってなかった?」


 ウォルファは覚えていた発言を口にした。それを聞いたカエウダーラは笑う。


「否定はしませんわ。恋路を応援したいってだけですの」

「そっか。ま。それがカエウダーラのやりたいことだったら、それでいいよ。そう言えばその……理想のタイプってどんな感じなわけ」


 カエウダーラはウォルファの頭を撫でる。


「それはまた今度! 連絡入れるからお待ちになって!」

「あ。うん。じゃあ」


 華麗に去って行った。あまりの早さにウォルファは数秒ぼーっとした。


「帰ろ」


 ボソッと言った彼女はエレベーターに乗った。この後、無事に例の彼が結婚できたかどうかは……ご想像にお任せする。

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お見合いデートを追尾せよ! いちのさつき @satuki1

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