お見合いデートを追尾せよ!
いちのさつき
第1話 高級レストランがあるビルまで
晴れの空模様が写る素材で出来た高層ビルが集まる大都市ウートガルズ。耳先が尖った知的生命体エルフェンが行き交っていた。人間の耳の位置に獣耳があり、尻尾が生えている人や、ヒレ耳を持つ人もちらほらと見かける。ファンタジー要素のある住人だが、服装は現代の地球と変わらない。
「ソーニャ。一応カエウダーラを捉えたよ」
地上に出られる地下鉄の駅の出入り口に茶色のショートヘアで獣耳と尻尾の神獣族と呼ばれる若い女性がいた。光子力の結晶である透明マントを羽織り、その下には動きやすいジーパンとシャツの格好をしている。無線のインカムでソーニャと呼ぶ人とやり取りをしていた。カーディガンを羽織った濃い紫色のドレス姿を着た、柔らかい水色の髪をしているヒレ耳の女性を見ながらである。
「おっけー。ウォルファ、尾行よろしくっす」
楽しそうな女性の声にウォルファという神獣族は嫌そうな顔になる。
「やめようよ。マジで」
乗る気ゼロなウォルファである。
「だってお嬢様のデートなんて滅多に見られないじゃないっすか」
カエウダーラはウォルファの狩人の仲間であり、友人でもある事柄だ。お嬢様であることも知っているが、そこまで知る必要もないというのがウォルファの考えである。
「あとで話聞けばいいだけでしょ。それにカエウダーラの邪魔をするわけには」
「見るだけっすよ。邪魔するわけじゃなーい」
ダメだこりゃと思い、ウォルファはテンション低めの声で伝える。
「はー……とりあえず切るよ」
「はいはーい」
ウォルファはプツリとインカムの電源を切った。何故こうなったのだと思いながら、陰から様子を窺っていく。黒いワイシャツとスリム系の黒いズボン、金色の首飾りをした、ヒレ耳を持つ金髪の爽やか系の男がカエウダーラに近づいてきた。右の拳を作り、ぐるりと動かす。ヒレ耳を持つアプカル族の挨拶の動作である。
「カエウダーラ。お待たせしました」
「いえ。こちらも先程着きましたので、お気になさらず」
「それでは行きましょうか。どうぞ。僕が予約したのです」
デートと言っても、恋人関係のものではない。二人にとってお見合い結婚の過程の一つでしかない。それを知っているウォルファは「お嬢様は大変だな」と思いながら、彼らの移動をこっそりと付いて行く。足音を立てないようにし、透明マントを使いながらである。一キロ離れているが、ウォルファは正確に聞くことが出来る。会話はこのようなものである。
「最近の御調子はどうですか。会社のプロジェクトがかなり話題になっておりますけど」
「ご存知でしたか。はい。一大プロジェクトが注目の的になりましたからね。大変な時もありますが、充実していますよ。狩人として大きな案件があったりはしたのですか?」
男は地球で言うリーマンに近い仕事でエンターテインメント系の会社の企画部所属だ。一方で、カエウダーラはこの惑星の大戦争の負の遺産である合成獣を狩る狩人である。違う業界にいるが、どちらも生まれは金持ち一家が共通している。
「いえ。最近は違反した者を捕らえる仕事ばかりでしたね。もう少し張り合いのあるお仕事があればと思うのですが」
「まあこれは仕方のないことですよ。待ちましょう」
「そうですね」
長く会話が続くのかと思いきや、彼らの足がすぐ止まる。二十階建てのビル。紅葉のマークがある銀色の看板が目印となっている。カエウダーラは気になるのか、彼に質問する。
「予約した店って何でしょうか」
「ブローマパラダイスですよ」
有名であることをウォルファは知っていた。最近、高級レストランが取り上げられていたためだ。
「最近話題になってるレストランの。よく取れましたね」
「はい。どうにか予約を取れました」
流石にエレベーターに同行するわけにはいかない。ウォルファは遅れて、違うエレベーターに乗り込む。
「おっす。今あれっすか。紅葉ビルのとこっすね」
遠い地点にいるソーニャから連絡が入って来た。彼女は地球のGPSよりも高度なものを使い、現在地を把握していた。
「そーだよ。ブローマパラダイスってとこで食事するっぽい。もう帰りたい」
「弱気なことを言っちゃだめっすよ。まだまだなんすから」
「そろそろ二十階になるから切るよ」
「それじゃ報告待つっすね」
インカムの電源を切ったウォルファはひと言。
「とりあえず噂の店、一目見て帰るか」
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