第3話 炎熱地獄

 利兵衛は妾奉公のお久に言った。

「実は今日、千住からわざわざ名医を呼んでおる。おまえの病気が不憫ふびんでならぬのじゃ。今日から寝小便の治療をいたす。先生、お願いしますよ」


 利兵衛の声に応えて、やおら医者が登場した。

「お久さん。寝小便を治すツボがありましてな。そこにきゅうをすえれば、いっぺんに成治りますゆえ、少しの間、辛抱なされ」

 お久は思いがけない展開に内心狼狽したが、いまさら逃げも隠れもできない。やむなく灸の治療を受けることになった。


 医者はお久の下腹部をあらわにし、そこに大量のモグサを盛り上げた。モグサのてっぺんに火をつけると、その火がじわじわと下におりていく。やがて炎熱地獄となった。熱い、熱い。

 お久の美しい顔は苦悶に歪んだ。

「お願いです。やめてください。勘弁してください」

 その夜から、お久の寝小便はぴたりと止み、利兵衛は以後の契約期間、お久の若い肉体を存分に堪能した。


 この利兵衛の対応策は、江戸の町にぱっとひろまった。

 妾が寝小便をすると、その翌日から下腹部に巨大な灸がすえられるようになったのである。

 以来、猖獗しょうけつをきわめた小便組の女はいなくなったという。

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小便組の女 海石榴 @umi-zakuro7132

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