第2話 寝小便の病

 江戸時代は今と違って布団は実に高価であった。その高価な布団に、おりんは毎晩、寝小便を漏らすのだ。


 おりんを囲った忠兵衛も、これには閉口した。

「これは、わっちの病でございます。しないように、漏らさぬように、つとめてはおりますが、なかなか治りません」

 美しく色っぽい女に、上目づかいでさめざめと泣かれると、男はどうしても叱ったり、責めたりしずらい。しかも病気とあれば仕方がないではないか。結局、忠兵衛はおりんに暇を出した。


 妾奉公では、男が契約破棄をのぞんだ場合、前払いした契約金を返せとは言えない。高額で数年契約を結んだはずが、ほんの数日で終わってしまい、忠兵衛としては大損となった。


 暇を出されたおりんは、素知らぬ顔で別の奉公口を探した。

 女は、先方から暇を出させるよう、わざと寝小便をしていたのだ。そうすれば、実に効率よく稼げる。

 この詐欺は、「小便組」と呼ばれて、あちこちで真似をする若い女が続出した。引っかかる男も、あとを絶たなかったわけである。


 人形町の乾物屋の大店に利兵衛という旦那がいた。この旦那はもまた妾奉公のお久という女を囲ったが、女には寝小便の癖があった。

「ははん、お久は例の小便組であったか」

 自分がだまされたことを知ったが、このまま暇を出して大枚を失うのは悔しい。

 しかも、ひと目見て気に入った小股の切れ上がった女である。吸いつくような餅肌は極上の抱き心地で、手放すには惜しい。

 そこで利兵衛は一計を案じた。



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