小便組の女

海石榴

第1話 妾奉公の女

 江戸の昔、妾(囲い者)は、女の職業のひとつであった。よって妾奉公という。


 明和・安永(1764~81)の頃のことである。

 ひとりの若い女が、客を装って日本橋の呉服店の主人の前に現れた。

 女のあまりの美しさに、主人の忠兵衛がみずから着物の見立てをしながら、あれこれと世話を焼く。

 その忠兵衛の耳に、女が小声でひそひそとささやいた。

「口入れ屋の五郎吉さんの斡旋でまいりました。おりんと申します。わっちでよろしかったら、末永く可愛がってくださいな」

 

 ほれぼれするほどの美貌のおりんに甘くささやかれて、忠兵衛は舞い上がった。すぐさま高額の前金を出して契約を結び、妾宅の多く集まる玄治店げんやだなの一角に、黒板塀の別宅を借り受け、おりんを囲った。

 真新しい布団でいそいそと同衾したところ、美しいばかりか実に具合もいい。細身の白く妖艶な肉体、練絹のようにすべすべした柔肌。忠兵衛は天にも昇るような心持ちで、幾度も女の中に精を放出した。


 ところが女には思いがけない悪癖があった。なんと、毎晩、寝小便をするのだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る