78.今日もまた
サーロにある、コルトたちの家。
その玄関には今、『売家』の看板がかかっている。
「賠償金のカタになったらしいよ、ここ」
「もう、冒険者はできないそうですしね」
俺とリュントは、横目にその看板を見ながら通り過ぎる。いい家なんだけど、コルトたちが住んでいたってことで何というか、縁起が悪いみたいな噂が広がってて買い手つくかどうか、らしい。どうするんだろうな。
「コルト、実家に戻ったんだよな。侯爵家だったのが、伯爵家になっちゃったそうだけど」
「爵位というのは、上がり下がりするんですね」
「今回は家の末っ子がやらかして、次期当主である長男がそれを手助けしたってことで罰だな」
「なるほど。それでも……ええと、一ランクだけ、なんですね」
貴族の爵位とか俺たちにはあまり関係ないはなしだからか、リュントはあまり詳しくない。俺も似たようなもんだけど、当事者なんで一応グレッグくんから話は聞いている。彼曰く。
『王家や
……だってさ。どうも、何かやらかす前提で監視してるらしい。
「コルトの二番目のお兄さんが、新しい当主になったんだってさ」
「お家はともかく、領地の人々に何もなければいいですね」
「そだなあ」
伯爵家……あー、サーロはサラップ伯爵領だから同等になったわけか。いくらなんでも、もと侯爵だからってえばり散らすとかはないと思いたいけどな。格下げになった家だ、って笑いものにされたりしそうだしさ。
「姐さん、兄さん、あれで良かったんすか」
ギルドでちょうど、アードに会った。コルトたちのことは壁に通達が貼られてて皆知ってるから、それについて言われたんだよね。
「私は、エールが納得したのであれば」
「俺は……まあ、コルトさんざんな目にあったしな。実家でちゃんとやっていけるんなら、それでもいいかなあって」
故郷の村周りの話、というかドラゴンの住処周りの話も皆知ってる。あれだけ派手にやったんだから、隠せるわけもないんだけどさ。
なので、俺はこれ以上、コルトたちに何か言うつもりはなかったりする。少なくとも、コルトは反省してるみたいだし。
「兄さんも姐さんも、お優しいっすねえ」
「まあ、ぶっちゃけ目の前からいなくなったってだけでだいぶ気分は楽だよ」
結局はそこなんだけどね。とうにフィルミット領に移動してたあいつだけど、冒険者の資格もなくなったそうだし。家で、ちゃんとやれたらいいな、とは思う。
そういえば。
「『太陽の剣』の他三人、どうなったか知らないか?」
ガロア、ラーニャ、フルール。彼女たちはどうしたんだろうと思って、尋ねてみた。
「俺らも知らないんすけど、どっかでうまくやってんじゃないすかね。コルトにべた惚れして結果ああでしたけど、そこそこの実力はあったわけっすし」
「そうかもなあ」
アードも知らないのか。……ま、フィルミット領かどこかでちゃんと冒険者、やれてたら良いなあ。
……そういえば、グレッグくんがあっちの冒険者ギルドに行くって言ってたっけ。
「ギルマスがフィルミットの冒険者ギルド、行ってるっすよね? だったら、もしかしたら話聞けるんじゃないすかね」
「あちらのギルドと情報交換も兼ねての顔合わせ、と私は聞いていますが」
「そうだそうだ。『魔術契約書』の破棄やら何やらもあるって言ってたっけね」
リュントの言葉に、すっかり思い出す。
『魔術契約書』の主な出どころはフィルミット家で、契約者というか被害者の一人である俺の話を持っていってこう、いろいろやり取りするらしい。王家名代としてアナンダさんがある程度の権利もらってるって言うけど……なんかすごいな、ドラゴンて。
「ドラゴンて人の権力とは離れたところにいるっすから、人間の貴族が文句言っても跳ね返せるからとか聞きましたよ」
「ああ、そういうことか」
アードが言ってくれて、俺も理解はできた。例えば公爵家、王家に近い貴族が文句言ったりしてもアナンダさんなら押さえつけられるってことか。
……まあ、リュントやドラゴンたちが本気出せば人間なんて簡単にぷちっ、だもんなあ。そうするのは暴走した連中だけだけど、俺たちがこれ以上傲慢に振る舞ったりしたら、もう分からんな。
「ところでエール」
「ん、何」
「面白そうな依頼があるんですが」
おっと、リュントが依頼書もってやってきた。目がキラキラしてるから、中身に惹かれたな、こりゃ。
「へー。姐さんが面白そうとか、俺も興味あるっすね」
「お前は自分たちで依頼探せよ。こっちはモモもいるんだよ」
「ああ、モモちゃんの食費。何か凄いそうっすねえ」
依頼書見ようとするアードを、手で払う。
そうだよ、うちはドラゴンふたり抱えてるんだよ。モモのやつ、現在成長中で大食らいなんだよ。いや、最悪討伐依頼を受けて自力で食料取りに行くけどさ。
今は、ギルドでマスコット兼用心棒をやっております。小さいけどドラゴンなので、普通の酔っ払いを叩き出すくらいはできるのであった。凄いなドラゴン、食事代少しは自分で稼いでるぞ。
「はは、大変っすね兄さん。姐さんも、頑張ってくださいよ」
「うっせえ。そっちも頑張れよー」
「はい、それじゃ!」
笑って去ってったアード、お前ら他人事だからいいんだよなあ。
……と、ひとまずリュントの持ってきた依頼書見て、それから決めるか。
「……なるほど、これはいいな。手続きして、サクッと行くぞ」
「はい、分かりましたっ」
リュントは嬉しそうに、依頼書もってそのまま窓口に走っていった。あ、ライマさんが苦笑してる。さすがにはしゃぎすぎだよなあ、あれ。
ともあれ。
今日も俺とリュント、『白銀の竜牙』はいつものように冒険者として頑張る。
これからも色々あるだろうけれど、頑張って行こう。
追放された荷運び係のところに、竜人がやってきた 山吹弓美 @mayferia
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