第3話 衝撃の事実

 莫大な責任感を抱いた私はその日から、必死に調べに調べ尽くした。

 どうにかクリストファー殿下から能面を外せないかと。



 そうして決戦。クリストファー殿下から能面を外せるかどうかはこれにかかっている。

 私はそっと、この日のために用意した木箱を机の上に置いた。


「これは……?」

「クリストファー殿下にプレゼントです」


 そう言うと、何度か頭が上下する。木箱と私を交互に見ているのだろう。わずかに傾いた顔が、まるで満面の笑みのように見えた。


「あれから、色々と調べてみたのです。クリストファー殿下が着けているそちらの仮面――能面について」


 そう、まずは異国の文化とやらを学びはじめた。そこで私は衝撃の事実を知る。


「今殿下が着けている仮面は、女面と呼ばれているものです。つまり、女性を演じる方が被るもの。紳士服を纏っているクリストファー殿下にはふさわしくありません!」

「そんな……ドレスを着るしかないのか」


 ふるふると体を震わせているクリストファー殿下。仮面があっても感情がただ漏れだ。


「ドレス姿も似合うと思いますが、そこはひとまず置いておきます。なので私は、こちらを手に入れました」


 そう言って、木箱の蓋を開ける。中には、クリストファー殿下が被っているのよりもいかめしい顔をした仮面が一枚。


「こちらが男面。男性を演じる方が被るものです」


 はっとしたようにクリストファー殿下の顔が上がる。そう、女面ではなく男面であれば、紳士服のままでもおかしくない。

 クリストファー殿下の手が男面に伸びて、ごくりと喉が動いた。そして女面がクリストファー殿下の顔から外れる。


 輝くような青い瞳に、それを縁取る睫毛。形のよい鼻や唇。それらをじっと凝視して目に焼き付ける暇はない。

 私は仮面が入れ替わるその瞬間を逃さないように机から体を乗り出して、露わになった頬に口づけた。


「ですが、クリストファー殿下……。能面を着けていては、キスすることもできません。せめて私の前では、たまにでもいいので外してはいただけませんか?」


 そこから少しずつ慣らして、日常生活でも能面を着けなくても済むようになれば。


 だけどクリストファー殿下は顔を真っ赤にさせて、ふるふると体を震わせ、青い瞳が潤みはじめ――男面によって顔が隠れた。


「そ、そういうのは、結婚――いや、婚約関係になってから、で」

「わかりました。それでは、婚約いたしましょう。公然と口付けられる関係になりましょう」


 これはまだまだ先が長そうだ。

 何しろ、婚約を結ぼうと言っただけなのに、クリストファー殿下は耳まで真っ赤にさせて体を震わせているんだから。

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私のお見合い相手が能面王子でした 木崎 @kira3230

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