7.帰途

 ポケットに入れていたスマホが振動する。

「お、スマホ、使える」「ほんとだ」「LINE来てる」

 聡からだ。

 ――ふたりきりでいたいのは分かるけど、そろそろ合流してね。下の屋台のところにいるよ

 あいつー‼

 ――うざい。すぐ行く

「大樹たち、いま、屋台のところにいるって」

「行こう! あたし、バナナチョコ、食べたい」

「オレは牛串かな」

 石段を下りて、屋台のところにいく。みんなどこかな、と探していたら、

「ねえ、バナナチョコとチョコバナナと、どう違うのかな?」

 と、美月みつきが言う。美月はときどき、こういう奇妙な発言をする。オレはそんなとこも好きだったりする。

「……バナナチョコはバナナにチョコをつけたもの、チョコバナナはチョコにバナナをつけたもの」

 とっさにそう応える。チョコにバナナ? なんだ、それ。

「チョコにバナナって、どうやって?」

 真剣な顔の美月がオレと同じ疑問を呈し、オレは「頑張って!」と言って笑ってごまかす。美月も笑う。

「美月!」と琴子の声がして、ようやくみんなと合流出来た。

 聡がにやにやしながら、オレを見ている。

 オレはネックウォーマーを上げて、視線を外す。駄目だ、あいつのにやにやした顔は見ていられない。

 みんなで屋台を回る。

 オレはスマホを見て、聡を見ないようにしていた。

 すると、聡が近づいてきて「どうだった? せいクン」と言う。

 オレは聡を無視したまま、スマホゲームをして歩く。

「星ク~ン、教えてよー」

 こいつ、うざい。無駄にイケメンなのも、ムカツク。

「……オレ、射的やろ」

 聡を無視して、射的をする。「大当たり」を狙う。……ダメだ、これ、落ちないやつ。

「オレもやろー」

 大樹もあえなく撃沈。倒れるは倒れるけど、倒れただけではもらえない。落ちないとダメだそうだ。でも「大当たり」にはゴムがついていて、絶対に落ちない仕組みになっていた。だけど、オレはむきになってもう一回やり、あえなく撃沈。残念賞の粗品は要らないので、もらわずに鳥居へと向かう。

「星クン~」

 しつこく聡が来る。

 ……そう言えば、美月とふたりになって、みんなを追いかけなくてよかったのは、こいつのおかげだった。

「……ありがと、聡」

「え?」

「いや、あのとき、聡が目で合図してくれたから」

「……ああ、うん、いいんだよ。星が美月チャンとふたりになれたから」

「うん、ありがと」

「そう? で、出かける約束した?」

「……してない」

「えー、何やってんの!」

「いや、でも」鳩鈴守、あげたし。おそろいだし。

「次はふたりで会いなよ。僕や大樹や琴子は運動部だから部活が忙しくて、なかなか予定合わないけど、星と美月なら予定合わせやすいんじゃない?」

「……うん」

「LINEしときなよ」

「……うん」

 オレはポケットから、さっきの鳩鈴守を取り出し、ちょっと考えて定期入れにつけた。それを写真に撮る。――いい感じ。


 鎌倉駅に着いて、みんなで電車を待っている間に美月にLINEを送った。

 美月から、すぐに返信が来る。「始業式までは暇だよ!」というコメントとともに、定期入れに鳩鈴守をつけた写真がついていた。

 ――嬉しい。

 オレは帰りの電車に揺られながら、どうやって返事を書こうか悩み、未来への甘い期待と、どうしようもない幸福感に包まれていた。

 かすかに鳩鈴守の音がして、オレは定期入れに手をやった。

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銀色の鳩 ――金色の鳩② 西しまこ @nishi-shima

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