たったひとつの希望が世界を切り拓く

主人公が何者かに問い掛けるような語り口で現実の出来事を語るのですが、それがまるで心の拠り所にしているイマジナリーフレンドへの言葉のように感じられます。なんでも打ち明けられる存在が主人公にはなく、ギターを弾く環境でさえ自分を取り繕っているところを見ると、この本来は目の前に存在しない聞き手の存在が妙にリアルに思え、主人公が辛い現実から逃れるために見出したのだろうなと感じます。
音楽で殺伐とした異世界を生き抜いていくわけですが、悲壮感はほとんど現実に置き去っており、音楽の楽しさを軸に様々な繋がりを築き上げていく様子は、主人公が心のどこかで望んでいたようなものなのかなと思います。
音楽を文章で表現するのは難しいですが、この物語では、音楽をきっかけにして主人公や周囲の存在との関係性などの変化を描いています。音楽に琴線を刺激されるような背景を持った彼らに妙な人間性のようなものを感じ、読者は親近感を得ることになるでしょう。
後の展開の布石となるポイントもいくつか配置されており、それがより物語に幅を生み出すものと想像されます。ある意味、絶対的な力でもある主人公の音楽が今後どのようにコントロールされ、物語を牽引していくのかの立染みです。

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