第48話
「――完敗だよ。まさかあそこで投げられると思わなかった」
「……あれは少しやりすぎました。蹴ってしまい、すみませんでした」
私は謝罪の気持ちを示すため、深く腰をおった。
「いいんだ。顔を上げてくれ。僕はずっと君に負けるはずないと思っていたからな。おごっていたんだ。敗因はそれだったんだろう。とにかく君を見くびっていた。君は強いよ。……池谷にも悪いことをしたな。ちょっと一言言ってくる」
大岡は池谷の方へと歩いて行った。
池谷と大岡が話している間、南さんは私のほうへと近づいてきた。
「もうどうなるかと思いましたよ。……途中で止めようとも思いました。でも加野さんは戦っていたから止めませんでした。あなたならきっとやり遂げてくれると思っていましたよ。――よくやりましたね」
南さんは優しく私を包み込んでくれた。人の体温は今の私には感じないけどきっと温かいに違いない。少しでも体温を感じられないかと私も南さんを強く抱きしめる。
「ありがとうございます。私自身途中、諦めていた部分がありました。大岡さんとても強かったですもん」
正直怖かった。今にも泣きそうな気分だけど涙が流れていなくてよかった。
「では、自分自身とも戦っていたんですね。何か発見はありましたか?」
「……はい。ありました」
私の答えに南さんは満足そうに微笑んだ。
◆◇◆
――疲れた。部屋を移動すると、私は個室を借りた。生身の私自身がいる部屋だ。
一度アーカロイドの接続を解除しよう。少し休みたい。
「アーカム・アウト」
私が目をつむりながらつぶやくと一瞬、体の浮遊感を感じ、再び重力によって押し付けられる感覚になる。
柔らかい肌触りの感触を感じ、ベッドに横になっていることは理解したが、しばらく使っていなかった自身の体が戻ったばかりで驚いているのが分かる。その感覚が落ち着いたところで目を開ける。
「っ! 痛ぁ……」
目も長い間つむっていたので乾燥してしまってドライアイの状態のようだ。
痛みとともに流れてきた涙に目をしばらくなじませていると、目の乾燥は和らいでいく。ドライアイ用の目薬用意しないとな。
少し体を起こそうかと思ったが、体が重いことが分かる。
これはアーカロイド使用の副作用だ。製品の注意事項に強調表示で書かれるやつである。
私は何度も経験しているため、こういう時の対処法は分かる。体の力を抜いて感覚をゆっくりなじませていれば、いずれ症状は治まるが、初めて使う人はしばらくは起きれなくなるだろう。
だが、今回は症状が少し重いかもしれない。あのときアーカロイドの限界を超えようとしたからかな。あー少しくらくらする。このまま寝ちゃおうかな。
私は深い深呼吸を繰り返し、体をリラックスモードにする。これで眠れなかったら羊を数えようかと思ったが、そうしているうちに意識は遠のいていった。
UQ(アーカム・クエスト) 心桜 鶉 @shiou0uzura
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