第3話・五回目の転生から、さらに転生を続けて……やっと人間に……そして 〔ラスト〕
【五回目の転生】
家畜の次は、タヌキに似た異世界の野生動物だった。
捕食動物に怯える必要もない比較的、気楽な転生。
(こんな転生なら、楽で……)
森の中で、成獣に成長したオレがエサを食べていた時──銃声が響き、体に痛みを感じた瞬間と。オレが即死をしたのは、ほほ同時だった。
死んで肉体から離れたオレの魂は、今回はすぐには転生しないでタヌキのような姿の生物の近くに漂っていた。
(なんで、今回は簡単に転生しないんだ?)
その理由は、すぐにわかった。オレのタヌキ遺体はある場所に運ばれた。
オレの遺体を前に、血が飛び散った前掛けをした異世界の男が言った。
「こりゃ、いい毛並みの毛皮だ……これなら、依頼人が望んだ通りの〝
(剥製!?)
オレは、自分の遺体の皮が剥がされていくのを、眺めるコトしかできなかった。
普通のタヌキの剥製でも作るのかと思っていたら違っていた、皮の中に詰め物をされたオレの転生タヌキは、後ろ足二本で立たされた。
(? 何をするつもりだ?)
傘をかぶせられ、
(これって……リアルなタヌキの置物? やめてくれぇ! こんな恥ずかしいモノを人に見せないでくれぇ!)
オレの悲痛な叫びも虚しく、オレの魂は次の転生に向かった。
【六回目の転生で……やっと】
オレは、異世界でやっと人間に転生できた。
赤ん坊からスタートしたオレは、ゴブリンとかオークに生まれなかったコトに安堵して産着の中でバンザイをした。
(やったぁ! やっと人間になれたぁ……ずいぶんと貧乏で、すきま風が通る寒い家だな?)
人間として異世界に転生できたが、たいした能力もスキルもない。
いわゆるモブ以下の、田舎の貧しい平民で。
貧しかったオレの家は、オレが幼少に達して少しでも働けるようになると、間引きされて別の家に引き取られた。
(こんなはずじゃ、オレには楽して異世界転生の、スゴい力が秘められていたんじゃないのかよ?)
元々、現世界にいた時から、努力とか修業とか面倒くさいコトが大嫌いだったオレに、タナボタ式の人生転換が訪れるはずもなく。
小学生中学年くらいの年齢になったオレは、雪が降り積もる中で、薪を背負って運んできた山道で、谷底に滑落して……死んだ。
「ぐえっ!」
【七回目の異世界転生で……金持ちの家に】
七回目……オレは、シルクの産着に包まれ、金持ちの家の母親に大聖堂で抱かれて幸せだった。
(これだよ、これ、オレ……いや、あたしがが望んでいた異世界転生は)
転生したのが、女児の悪役令嬢だったけれど、それでもいいわ。破滅回避のルート人生を歩んでやる。
あたしが転生した世界は、外では近代兵器の戦火が広がっていたけれど。
(金持ちの館までは、さすがに爆撃は)
あたしがそう思った次の瞬間、爆撃された大聖堂の天井が崩れて、あたしとあたしを抱く母親の上に落ちてきた。
(ウソぅぅ!)
逃げ出すコトもできない、赤ん坊のまま……あたしは天井の下敷きになって……
【異世界転生者の行きつく先は……地獄で決定!】
その後もロクな人生でない異世界転生を繰り返したオレは、孤独に老衰で死んで和風の地獄に落ちた。
「あら、久しぶり……異世界転生は楽しめた?」
閻魔大王の椅子に、オレを最初に異世界転生させたロリロリ女が、閻魔の格好をして座っていた。
三角形の頭布をつけて、亡者の格好をした若者姿のオレは驚いて、ロリロリ女に質問する。
「な、なんでおまえが地獄に?」
「だって、あたし閻魔大王の娘だもん」
「なにぃ!?」
予想外の展開に、驚くオレ。
「閻魔の修業の一つで、転生の女神みたいなコトをやっていたの……今は先代のクソ親父閻魔を、追放して。あたしが閻魔大王の椅子に……せっかくだから、あんたに異世界転生ラノベ勇者の真似事をさせてあげる」
「異世界転生ラノベの真似事?」
「亡者の姿で
「ふざけんな、誰がそんなアホなコトを!」
「あっ、閻魔に反抗的な態度……獄卒の鬼ども、コイツいたぶって。元閻魔の魔王退治に出発させて。
体をバラバラにされても地獄なら風が吹けば生き返るから、回復系魔法いらず。いってらっしゃい」
「やめろおっ!」
オレは、地獄の鬼に金棒で追い立てられながら、異世界【地獄】の旅に出発した。
【気楽な転生者には地獄こそ相応しい】~イベント感覚で死ぬヤツにパラダイスな異世界など認めない!~おわり~
【気楽な転生者には地獄こそ相応しい】~イベント感覚で死ぬヤツにパラダイスな異世界など認めない!~ 楠本恵士 @67853-_-
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