その自在な息づかいを。

「この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。」
テーマ(核)はその一文につきます。
この尊大な羞恥心は、虎のアイデンティティでもあります。皮肉な言い方になりますが。
この作品は、李景亮の伝奇『人虎伝』をもとに、創作されたものです。虎になったのは尊大な羞恥心によってだという李徴の独白、同時に作者中島敦の解釈により。
中島敦の自己投影があるように見うけられます。それは近代、そして現代に通ずる心理でもあるようにおもわれます。
一時期、中島敦はよく読んでおりました。改めて読みなおし、感嘆しました。
内容もさることながら、いうまでもなく、文章も見事。漢文のくっきりした輪郭の、それでいながら形式にとらわれぬ自在な柔軟性をもつ、中島敦のセンスのよさよ。
漢字がむつかしいとか用語がむつかしいとか、そういう表面的なところにとらわれず、その自在な息づかいをくみ取って読んでいただきたい、と切におもいます。

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