蔵品怪談奇談

蔵品大樹

時を見る

 俺は芹沢研。平凡に生きてきたサラリーマンだ。


 俺はいつも普通だった。普通に義務教育を果たし、普通に大学生活を過ごし、普通に就活をし、普通に仕事をする。ただそれだけだった。


 一時期は趣味を見つけようとした時もあった。しかし、自分に合う趣味は見つからず、結局平凡に戻ってしまった。


 俺はいつもこう思う。(あぁ、平凡な俺でもハマる物は無いだろうか?)


 そんなある日の事、仕事の帰り、コンビニで夕飯を買った後、俺は帰路についていた。その時だ。


 「もう!何なのよ!二度と来ないわ!」


 目の前から女性が走ってきて、俺の前を横切った。


 「何だ何だ…」


 俺は周りを見渡すと、目の前に看板があった。看板には、『時の館』と書いていた。


 (気になるな…)


 俺は看板のある家に入った。


 家に入ると、そこにはテーブルの上に水晶が乗っていて、その向こうには『いかにも』と言った占い師の老婆がいた。


 「どうも、いらっしゃいませ」


 「ど、どうも…」


 「どうぞ、お座りください」


 俺は老婆に言われるがままに椅子に座った。


 「あの…」


 「何でしょう?」


 「ここは、どんな事をするのでしょうか?」


 「ここは、あなたの未来を見たり、事の未来を見る事ができます」


 「へぇ…」


 「1回100円なのでお手軽ですよ」


 「(占いにお手軽もクソも無い気がするが…)はぁ…じゃあ、見てくださいな。明日の未来を」


 「わかりました…まず、あなたの職業はサラリーマンですね…」


 「は、はい。そうですが…」


 「で、では、未来を見ますので、私や水晶に触れないでくださいね」


 「わ、わかりました…」


 すると、老婆は目を閉じると、無言で水晶に触れた。


 それから数分後、老婆は急に目を見開いた。


 「ハァッ!」


 「な、なんですか!?」


 「見えました。明日の未来が…」


 「はぁ…じゃ、今すぐ教えて下さい!」


 「明日は、あなたの会社が休みになりますね」


 「な、何で?」


 「あなたの会社の社長さんが病気で倒れます」


 「病気で倒れる?しかも社長が?そんな訳無いだろう。この間、社長と1回飲んだ事があるが全然元気そうだったんだぜ」


 「しかし、この占いは100%なのです。必ず当たります」


 「全く、時間の無駄だったよ。あ、後これ100円ね」


 俺はテーブルに100円を置くと、そこを去った。


 次の日、俺は電話の音で目覚めた。


 「はい…」


 「芹沢くん!今日は会社は休みだ!」


 相手は部長だ。


 「えっ!休み?な、何故です?」


 「社長が急に倒れたんだ!」


 「な、なんで!?」


 「どうやら、肺癌だった様で、今、手術をしている所だ…だから今日は休みだ!ゆっくり休んでくれ」


 そして、電話が切れた。


 「ほ、本当だったのか…」


 俺は驚いた。まさか本当にあの占いが当たるだなんて。


 俺はテレビをつけると、ニュースをやっていた。


 「次のニュースです。東京都宗本町にて、事故が起こりました。被害者は宗本町に住む、31歳女性の坂東由香里さん。病院に運ばれるも、治療も虚しく、亡くなってしまいました」


 すると、テレビには昨日すれ違った女の顔が映っていた。


 (ちょっと待てよ…昨日、あの女、あの時の店で怒りながら出て行ったよな…もしかして…)


 俺は急いで、あの店に戻った。


 「はい…」


 「お婆さん!」


 「何だい?」


 「俺、昨日、疑ってすいません!」


 「いや、いいのよ…」


 すると、老婆は、悲しい顔をすると、急ににこやかになった。


 「そうだ、まだ名前を言って無かったね。これ、名刺よ」


 老婆は隣にあったバックの中から名刺入れを取り出し、1枚の名刺を取り出した。


 『未来視人 鷹野聖子』


 「未来視人?」


 「未来視人と言うのはね、読んで字の如く、未来を見る事ができるの。私の一族である鷹野一族は皆未来を見る事ができるの。何故こんな事が出来るようになったのは、江戸時代の侍。私達の先祖に当たる鷹野秀長が、雷に当たり、未来視の能力を授かったのが、事の発端なのよ。まあ、その人は結婚して子供が8人産まれた後に辻斬りに遭って亡くなってしまったがね」


 「はぁ…」


 「また、未来を見るかい?」


 「は、はい!未来を見ます!」


 俺にある1つの趣味が生まれた。俺は未来を見てもらう事だ。一日一回、未来を見てもらう事によって、預言者になった様な気分だ。俺は非常に嬉しかった。それは何故か。それは今まで出来なかった趣味が生まれた事によって人生に『色』がついたからだ。


 しかし、俺の人生も、そんな順風満帆では無かった。


 その日は俺がまた鷹野さんに未来を見てもらった時だ。


 「未来が見えました」


 「そうか!なんの未来か?」


 「誠に言いづらい事ですが、よろしいのですか?」


 「あぁ、いいさ!どんとでも来い!」


 「あなたが…事故に遭います…」


 「へ…?」


 「だから、事故に遭います…」


 俺は残念だった。まさか、自分が事故に遭う未来を見る事になるなんて。


 「あ、あの!じ、事故はどんな感じで…」


 「植物人間になるレベルです」


 「……未来は変えられないんですか?」


 「はい。そうです…」


 「そ、そんな…」


 「ですが、例外はあります…」


 「それは?」


 「鷹野家の血を引いている者、つまり、未来視が出来る人間のみが、未来を変える事ができます」


 「そ、そうですか…」


 俺は鷹野さんに100円を支払うと、そこを去った。


 家に帰ると、俺は冷蔵庫からアイスを取り出し、それを食べ始めた。


 (植物人間になるんだ…せめてでも好きなアイスを食ってから…)


 俺は一晩中、アイスを食い続けた。


 次の日、俺は会社に向かった。交差点につくと、俺は右、左、右の順で見渡し、道路を渡った。すると、隣からブレーキの音がした。俺は音の方へ向くと、そこにはトラックがこちらに来ていた。


 (あぁ…さようなら、俺の人生…)


 俺はトラックにはねられた。








 「う…うぅむ…ここは…」


 「おぉ!芹沢さんが目を覚ました!」


 俺は何故か病院にいた。


 (あれ?俺…事故に遭ったはずじゃ…)


 すると、目の前にいる医師が説明をしてくれた。


 「芹沢さん、あなたは当たりどころが悪かったら植物人間状態、ましてや死んでましたよ」


 「へっ?」


 「あなたの背負っていたリュックがなんとかクッションになってくれて、骨が3、4本折れるくらいでなんとか助かりました」


 「はぁ…(もしかして…俺って…)」


 それから数週間後、俺は鷹野さんの元に向かった。


 「いらっしゃ…!あなたは!」


 「鷹野さん、俺って、鷹野家の血を引くんですか…」


 「……………その元気そうな様子を見ると、本当にそうらしいね」


 「……」


 「あなたもね、鷹野家の一人なのよ、研」


 すると、鷹野さんは語りだした。


 「数年前、私の娘である由紀子が、当時まだ赤子だったあなたを捨てたの、由紀子に何故捨てたか理由を聞いてきたの。それは『未来視出来る人間を産みたくなかった。学校に上がったら絶対にいじめられる』と言っていたの。おそらく彼女なりの判断だったわ。その後、私はあなたの未来を見てみた。そしたら、私の店にあなたが来る未来を見たの。私は、夫の辰夫に聞いてみたの。そしたら『その時が来るまで待つがよい』と、そして、今、こうしてあなたと巡り会えた。これも、運命と言うものかしら…」


 「……」


 俺は気付けば、泣いていた。自分にこんな悲惨な人生があるなんて…。そして、俺は鷹野さんに気になることを言った。


 「じゃあ、何で、今まで俺はこんな能力を使わなかったんだ?」


 「さぁ、私にもわからない…しかし、思う事は1つ。自分が芹沢家の人間として産まれたと脳が錯覚して、能力を使わなかったのよ。そして、鷹野家の1人である私に会った事によってその能力が開花したのだと思うわ」


 「そうですか」


 「それで…未来を見る?」


 「はい。お願いします」


 「!?」


 「ど、どうしました!?」


 「最悪な…未来が…」


 鷹野さんは震えていた。


 「な、なんの未来です?」


 「明日、巨大隕石が地球に墜ちる!」


 「きょ、巨大隕石!」


 「そう!鷹野家の方でも、その未来を変えるようにするから、あなたもできるはず!」


 「わ、わかりました!」


 俺は家に戻った。


 俺は祈った。祈りに祈った。


 (お願いです!神様、この未来を変えてください!)


 俺は1日中祈り続けた。










 次の日、俺はテレビを付け、ニュースを見た。


 そして、隕石にまつわるニュースはしていなかった。


 「よ、よかった…これで未来を変えられたんだな…」


 「次のニュースです。国会議事堂前に謎の手紙が置かれました」


 画面が切り替わり、その手紙が映し出された。


 「手紙にはカタカナで『地球は我らが頂く。覚悟していろ。スンガル星』と書かれており、政府からは『これはイタズラだ』と言われています」


 その瞬間、頭の中にある映像が流れてきた。それは、宇宙人が地球を支配し、人間を奴隷とする映像が。


 俺はまた、未来を変えるために、祈り出した。

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