死神と名乗る男
俺は繁田悠作。余命半年の男だ。
俺は半年前、医者に余命1年と言われた。この頃は体調も優れず、体も貧弱していった。
妻の秋子にこの事を伝えると、無論、泣いていた。
そして、俺は病院に入院した。
勿論、俺の入院費用を稼ぐ為に週6で働いている秋子の事を考えると、俺まで涙が溢れてくる。何も出来ない自分が悔しくてしょうがなかった。
そんなある日の事、ぼーっとしていた俺に、声が聞こえた。
「繁田さん。繁田悠作さん」
目の前には何故か黒いコートを着た若い男が立っていた。
「どなた様でしょうか?」
「フフフ、私は死神。あなたを見てくるよう閻魔様に言われた者です」
「あぁ、俺は遂に頭もおかしくなってきたか」
「いえいえ、あなたのお頭は正常でございます」
「そうか」
不審に思った俺はナースコールを押そうとした。しかし、死神と名乗る男は俺の手を止めた。
「な、なんだよ!」
「フフフ、そのボタンを押しても無意味。死神の姿が見えるのは、死期が近い者のみでございます」
「そ、そうか…」
俺はナースコールから手を離した。
「というより、何で死神が人間の見た目なんだ。イメージと違う気がするが…」
「フフフ、実は閻魔様から人間界では、この姿でいろと言われたものでして、この人間の姿なんですよ」
「そうか…」
俺は妙に納得してしまった。
「それで、その死神が俺に何の用だい?」
「実は、この資料に目を通していただきたくて」
すると、死神はコートの内ポケットから1枚の資料を取り出した。その資料の1番上には、『お命お金換金サービス』と書かれていた。
「お命お金換金サービス?」
「はい。このサービスはもうじき自害してしまう人やあなたの様な本来なら決められていない死で死んでしまう様な人に向けたサービスで、本来の寿命分をお金に変えて、その人の親族にあげるのです。あなた様の場合だと、奥様にあげることになりますね」
「はぁ…」
「まぁ、あなた様の場合は、10億ですかね」
「じゅ、10億!?」
「はい、だいたい考えればこんな感じですかね」
「そんな、凄い額、閻魔様が用意できるのか?」
「はい。無論。というより、金を渡すのは閻魔様の同業者である神様ですかね?」
「そういう事になるのか…」
「だから、わざわざ私がもうじき亡くなってしまうあなた様の前に現れたんですからね」
すると、死神は内ポケットから万年筆を取り出した。
「では、下の所にあなた様のお名前をお書きください」
俺は死神に言われた通りに名前を書いた。
「これでよろしいでしょうか?」
「はい」
「では、次に会うときは、地獄で」
そして、死神は病室を出ていった。
「はあ…俺が死んだ時、秋子が安心してくれれば良いんだがなぁ…」
それから数日後、この日は死ぬ1日前だった。
「はあ…後1日で死ぬ。何事も無い、悔いのない人生だったなぁ…」
すると、目の前に死神がぼんやりと現れた。しかし、その姿は半年前に現れた姿とは違く、想像通りの死神だった。
「だ、誰だ、お前は!」
「俺は死神。今からお前の命を狩りに…と、言いたい所だが、本題はそれじゃない。お前は今、嫁に殺されそうになっているんだ!」
「えっ!?秋子に殺されそうになっている!?」
「あぁ、お前は1年前にお前の嫁から出された食事の味はどうだった?」
「う〜ん…昔のことだからなぁ…確か、カレーだったが…ちょっと苦かった記憶が…」
「そのカレーに毒が混ぜられていたんだ!しかも、衰弱していくタイプのな!」
「そ、そんな馬鹿な…」
「しかもお前、半年前に死神と名乗った奴がここに来ただろう?」
「あぁ、確か、お命お金換金サービスってやつを持ってきたなぁ」
「あの死神は偽物だ!お前の嫁と保険金殺人をしようとしているんだよ!」
「で、でも何故、あの秋子が保険金殺人なんか…」
「恐らくだが、お前が入院している前に浮気をしていたんだ。そして、その男に惚れてしまい、お前を殺すように画策したんだよ!」
「そ、そういう事か…」
「俺はある能力を持っている。それは人の寿命を交換する事だ。今からにでも間に合う!あの男とあの女の寿命と、お前の寿命を交換しよう!」
俺は考えた。自分は騙されていた事。殺されかけた事。浮気していた事。俺は怒りが湧き、死神に言い放った!
「死神よ!では、2人の寿命と俺の寿命を交換してくれ!」
「そうか!了解したぞ!」
そして、死神は消えた。
一方その頃、例の2人は、高飛びする為に飛行機に乗っていた。
「本当に良かったのか?秋子?元カレの俺を愛しちゃって?」
「良いのよ。結局、あの人は顔だけだったからね」
「そうか。ハハ!まぁ、アイツはもうじき死ぬから、訴えられる事はないし、金も貰えるし、一石二鳥だな!アッハハハ」
すると、死神と名乗った男、辻武明が心臓を抑え始めた。
「ぐっ…うっ…」
「どうしたの?急に心臓を抑え…うっ…ぎっ…」
2人は呼吸ができなかった。その理由は言われるまでもない。寿命がもうないからだ。
「たす…けて…」
「し…死んじゃう…」
「お客様、どうしました!?」
CAが駆けつけた時にはもう2人共虫の息だった。
「お、お客様の中にお医者様へいらっしゃいませんでしょうか!?」
しかし、機内には都合よく医者がいる訳でもなく、誰も手を挙げず、誰も立つ事は無かった。
「…………………………」
「…………………………」
2人は亡くなった。バチが当たったのだ。2人の近くでは、もうじき死期が近い者のみしか見えない存在、死神がほくそ笑んでいた。
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