幸せになれる壺

 俺は飯豊恒夫。日本で大富豪となったエリートマンだ。

 俺は30代の頃に、会社を辞めて起業をした。

 そして、会社にいた頃の知識や血が滲むような努力をした結果、大企業『イイトヨホールディングス』とまで進化した。さらに、妻の真弓は有名な女優なので、色んな人に羨まられた。

 そんなある日の事、この日は妻が仕事で居なかった為、俺は趣味の読書に浸っていた。

 すると、玄関からインターホンの音が鳴り、俺は玄関に向かった。

 「はい」

 ドアスコープを覗くと、そこには見たことがある男がいた。

 「お〜い!恒夫く〜ん!いるんだろ!開けてくれないか?」

 外には、なにやら怪しげな壺を持った昔ながらの友人、坪井勝がそこに突っ立っていた。

 「何だよ勝、壺なんか持っちゃって」

 「まぁ、とりあえず、入れてくれよ!」

 俺はなしょうがなく、ドアを開けた。

 「ちょっと失礼」

 勝は床に壺を置くと、話し始めた。

 「恒夫くん、これ、何だと思う?」

 「ん?まぁ、壺だろ?」

 「まぁ…これは確かに壺だけど、実はこれ、『幸せになれる壺』なんだよ!」

 「幸せになる壺ねぇ…まぁ、そんな詐欺に引っかからない程、俺はバカじゃないんだ。さぁさぁ、帰った帰った」

 「まぁまぁ…最後まで話を聞いてくれ〜。実はね、俺もこの壺を持ってるんだけど、結構幸せになってるよ!」

 「ふ〜ん」

 「例えば、宝くじがあるだろう!なんと、一等が当たったんだ!」

 「一等ねぇ…」

 「まぁ、買ってくれよ!この幸せの壺!」

 俺は結局、勝の押しに負けてしまったが、1つ、気になる事を聞いた。

 「わかった、買うよ………因みに、その壺どこで貰った?」

 「あぁ、これね、海外に行った時に商人の人が売ってたんだ。それを言い値で買ったんだよ」

 「ほ〜ん」

 俺は財布から、何万か出して、その壺を買った。

 「これでいいだろ?」

 「おっ!こんなにいいのかい?」

 「あぁ、いいさ、妻が海外の物を集める趣味があるからな」

 「じゃあ…また、今度!」

 その時、アイツは小声で、『コレでコイツから解放される』と聞こえた気がしたが、そんなのどうでもいい。

 俺は壺を居間に持っていき、まじまじとその壺を見てみた。

 「なかなか良い壺だな、流石、海外産と言ったところか」

 壺の取っ手を見てみると、何か、割れ目がついていた。

 「うわっ、何だよ!取っ手にひびが出来てるじゃねぇか。チッ、せめて数千円の価値だな」

 俺は知り合いの骨董品店の店長に電話を掛けようとした。その時、部屋が真っ暗になった。

 「何だ!ブレーカーが落ちたのか?」

 俺はブレーカーを戻すと、居間に戻った。しかし、そこに壺は無かった。

 「あれ?無い!」

 俺は家中探し、結局、書斎に壺はあった。

 「ハァ…ハァ…まさか壺探しにこんなに時間がかかるなんてな。そういえば、もう5時か。もうそろそろ真弓が帰ってくる時間なんだが…」

 しかし、真弓は、6時になっても、7時になっても、帰ってこなかった。

 「うむ…電話を掛けよう」

 心配した俺は真弓に電話を掛けた。

 「出てくれよ」

 心臓がドキドキしながらも、俺は応答を待つと、聞き覚えのある声がした。

 「どうしたの、あなた?」

 「おぉ、良かった。今、お前何処にいるんだ?」

 「あぁ、ごめんね。急に予定が変わっちゃって、今、撮影の為に、沖縄にいるのよ。だから、3日ぐらい帰れないわ」

 「そうか、わかった」

 俺は電話を切った。

 「ふむ…じゃあ、夕飯を食いにでも行くか」

 俺は外に出て、繁華街に向かった。

 俺はある定食屋に入ると、席は満席だった。他の店も満席だった。

 「何だよ、ブレーカーが落ちたり、壺が消えたり、行く店全部満席だなんて、運が悪い。仕方ない、コンビニで何か買うとするか」

 コンビニ入ろうとすると、何故か警察官に止められた。

 「何です!?」

 「今、このコンビニに強盗犯がいるんです!だから、今は入らないでください!」

 「……………」

 何か、今日は何かと運が悪い。仕方なく、俺は家に帰ることにした。

 「ただいま…」

 居間に入り、壺を見ると、何か、イライラした気持ちがこみ上げてきた。

 「チクショウ!こんなもん買ってなければ…」

 俺は壺を地下室に持っていき、台の上に乗せた。

 「こんなもん、ウラァァァァ!」

 俺はモンキーレンチで、壺を叩いた。

 そして、その瞬間、壺は割れた。

 「はぁ…はぁ…ハハハ!アッハハハ!」

 俺は狂ったように笑い続け、寝室に向かい、そのまま眠った。




 次の日、俺は業務を行っていた。

 あと少しで終わる時、電話が鳴った。

 「誰だ?」

 相手は勝だった。

 「はい」

 「恒夫くん…壺を割ったのかい?」

 「あぁ、割ったさ」

 「あぁ、なんてことを!」

 「何!?」

 「あの壺は割ると不幸を訪れる壺の破片になるんだよ!」

 「何だって!?でも、俺は割る前にも不幸が訪れていたぞ!」

 「その理由は、君が壺を貰ったとき、取っ手に割れ目があっただろう。そういうことだ」

 「貴様ぁ…」

 「本当にごめん…」

 そして、勝は電話を切った。

 「あの野郎…」

 俺は頭を抱えていると、ドアが開いた。

 「誰だ」

 そこにはナイフを持ったセンター分けの男がいた。

 「だ、誰だ!貴様は!」

 「俺は殺し屋だよ」

 「な、何!?誰の依頼だ!?」

 「フフフ、お前のライバル社の社長さんだよ」

 「ぐぬぬ…アイツか…」

 「実はこのナイフには強力な毒が塗ってある。すぐに死ねるぞ」

 後ずりをしても、奴は来る。すると、奴は口を開いた。

 「そういえば、お前の奥さん、女優の飯豊真弓だよなぁ…その女、事故に遭って亡くなっちゃったなぁ。だからさ、天国で幸せにね」

 そして、奴はナイフを俺の腹部に刺した。

 俺は死に至った。あの壺を貰うんじゃなかったと後悔しながら。

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