うちの部長は目が血走っている
俺は新藤篤。とある会社で働くサラリーマンだ。
いきなりだが、俺がいる営業部には不思議な男がいる。その男の名は、米倉敏治。営業部の部長だ。そんな彼はとある特徴を持っている。
それは、目がいつも血走っている事だ。
それだけ聞くと、『ただ寝不足なだけでは?』と、言われるのかもしれない。確かに寝不足なのもあるのだろうが、実際は違う。実は、部長は過去にとある理由で、泣き続けたんだとか。その理由でいつも目が血走っているのだ。
そう、異常なのは、いつも目が血走っているところ。本来、三日三晩泣き続けてもそんな感じにはならない。しかし、彼は違かったのだ。それが、体の不思議という物なのだから。
無論、それを知っている俺達部下は、気にならないはずもなく、最初、部長の目を見た者の中には、それに怯えてしまい、失神してしまうものもいた。
しかし、今ではちょっと驚くだけで仕事にはなんにも支障は出なかった。
そんなある日の事。その日は春風が吹く春。会社には、新社会人が十人程営業部に来たのだ。それぞれ、彼らは自己紹介する。
そして、十人全員の自己紹介が終わり、部長が皆に自身を紹介する。
「どうも、営業部部長の米倉敏治と申します。営業部ではね、皆フレンドリーだからよろしくね」
部長がにっこりと笑うと、皆は驚いた。当然、こんな目が血走っている男がにっこりと笑うと怖いのもあるだろう。
そして、俺はある一人の男の担当となった。
「どうも、君の先輩の新藤篤だ。よろしく」
「どっ、どうも、池元蓮司と申します!」
どうやら、池元は緊張しているのか、ガクガクと震えている。
「まぁ、そんなに緊張しないで。なんか、質問とかある?俺が知ってる範囲内なら答えられるけど」
「で、では…お言葉に甘えて………………なぜ部長の目はあんなに血走っているいるんですか?」
俺は悟った。
(あぁ、俺も新人にこの事を話すときが来たか…)
俺は池元の肩を叩いた。
「今は忙しいから、後で話すよ」
「は、はい!わかりました…」
その夜。俺達は新人送迎会のために、とある飲み屋にいた。
宴が始まって間もない頃、池元からこう言われた。
「あ、あの…」
「なんだ?」
「午前中に言ってた、あの事は…」
「あぁ、わかった。じゃあ、言うよ。あれは、部長が四十代だった頃…」
時は十年前の事。部長はかつて、桜さんという妻を持っていた。
二人の夫婦仲は円満で、当時新人だった俺達に部長はこの事を自慢していた。
しかし、そんな幸せな生活はすぐに過ぎ去ってしまったのだ。
それは、桜さんが死んでしまった事。しかも、残虐な殺され方をしたのだ。まるで、拷問を受けたような跡があり、警察は殺人事件で捜査を開始したのだが、まだ犯人は捕まっていないのだとか。
当時の部長は、何日も休んでいて、俺達が心配になる程だったのだ。中には、桜さんの後を追って……………と考える人もいた。
しかし、部長が会社を休んで一年後、部長は久々に帰ってきた。しかし、そこには目が血走っている部長がいたのだ。それを見た者の中には失神した者もいた。どうやら、妻が亡くなった後、ずっと泣き続けたんだとか。
話し終えると、池元は泣いていた。
「ううぅ…部長にそんな過去があったとは………」
「おいおい、大袈裟だろ」
「ぐぅぅ……………」
俺は泣き続けた池元を支えることしかできなかった。
それから次の日、俺が営業部の部屋に入ると、もう池元がいた。
「おっ、池元、おはよ…ってうわっ!」
俺は驚いた。何故なら池元の目が血走っているからだ。
「おいおい、何があった?」
「はい…部長の話を聞いたあと、あれから泣き続けて……………」
「ハハハ、これじゃあ部長と同じだ」
すると、営業部の扉が開いた。そこには警察手帳を持った背広の男がいた。
「すいません、警察ですが、この中に、池元蓮司さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「は、はい。彼ならここにいますが…」
俺は背広の男に池元を渡すと、何故か男は池元の手に手錠をはめた。
「な、なにを…」
「池元蓮司、お前を殺人罪で逮捕する」
「えっ!」
そして、池元は男に連れて行かれた。
それから数分後、部長が来た。
「皆、おはよう。ん?池元くんは、どこだい?」
「はい…実は…警察に連れて行かれて…」
「あぁ、そうか。じゃあ、業務を始めようか」
部長は、池元の事を悲しむ事はなく、自分の席についた。
その夜、あるニュースが流れた。
「次のニュースです。十年前、米倉桜氏を殺害したとして、池元蓮司容疑者が逮捕されました」
「えぇっ!」
俺はテレビでこの事件を見たとき、驚いた。
次の日、俺は会社に行くと、池元の席は空いていた。当然だ。何故なら彼は逮捕されたからだ。俺は肩が重かった。
その夜、俺は珍しく残業をしてしまい、会社に残っていた。
そして、その仕事を終え、家に帰ろうとした時、同じく残業していた部長のパソコンの電源が付いていて事に気付き、電源を落とそうした。すると、とある日記が、パソコン内にあった。
俺は見るか見ないか、俺の中の天使と悪魔が戦い、最終的には、悪魔が勝利した。しかし、その判断が俺を地獄に落とした。
俺はマウスカーソルを日記のアイコンに押した。
すると、パスワード認証の画面が出てきた。俺は適当にキーボードを押していき、何回もの確認のうち、やっと日記が出てきた。
『5月7日 俺は警察の上層部に金を渡し、代わりに部下の池元に逮捕させた。本当に親父に感謝している。今度、何かしら奢ろうと思う』
俺は唾を飲んだ。
「ま、まさかな…」
俺は一番古いところまで戻した。
『2月20日 まさか、桜が浮気しているなんて、思いもしなかった。俺は間男を先に殺し、桜を拷問の末殺してやった。その途端、俺は泣き始めた。何故なのかはわからない。一旦会社に許可をとって休むことにしよう』
「これが、事件の真相…なのか…」
「何を見ているんだい?新藤くん?」
後ろから部長の声がした途端、俺は首を締められた。
「ぐっ…ううぅ」
「君は真実を知った。だから、君は死ぬべきだ」
俺は残っている意識を保ち、後ろにいる部長を背負投した。なんとか、通信教育で習った空手がなんとかなったようだ。
「ぐっ…」
「ぶ、部長…」
俺は力をすべて使い果たしたのか、俺は意識を失ってしまった。
次に目覚めたのは病院の一室だった。
「ここは…」
「目覚めたのね…篤…」
「お、お袋…」
目の前には母がいた。
俺はそばにいた医者に説明された。
どうやら、会社の警備員に意識を失っていた俺と部長を見つけ、救急車を読んてくれたのだそうだ。
部長の方は、殺人罪で逮捕された。まぁ、当然のことだ。
数日後、俺は会社に出向くと、釈放された池元が出迎えてくれた。
「おっ!先輩!心配しましたよ!」
「へっ、俺もだよ」
そして、部長の席を見ると、見たことが無い男が、座っていた。
「おぉ、君が新藤君かい?」
「あなたは?」
「私は竹中康雄。よろしく頼むよ」
新しく来た部長は、クマが濃かった。
俺は少し驚いたが、それを気にすることはなかった。
「次のニュースです。新藤篤氏を殺害したとして、竹中康雄容疑者が逮捕されました。さらに、家の中から、大量の遺骨が出てきており…………………………」
蔵品怪談奇談 蔵品大樹 @kurashinadaiki02
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。蔵品怪談奇談の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます