最終話「The NeverEnding Game!!」
戦いは終わった。
そして、その最後を本当に終わらせなければいけない。
魔王の玉座を今、丸腰でサイジは出てゆく。
外には、親衛隊の騎士たちがずらりと並んでいた。
「来たぞ、勇者だっ!」
「エルギア様は無事なのか!」
「と、とにかく、落ち着けっ! 総員、落ち着けーっ!」
ガシャガシャと包囲の輪が重なってゆく。
ざっと見て、数百人はいるだろう。
それに対して、今のサイジには聖剣エクスマキナーがない。それに、アナネムの肉体を借りられないので、ステータスも圧倒的に低かった。
だが、今は母子二人きりの時間を邪魔させたくない。
それに、もう戦う必要はないし、無意味だった。
「えっと、すみません。もうクリアしちゃったんだけど……って言って、通じるかな」
無理だった。
殺気立った親衛隊の連中は、武器を構えて完全に取り囲んでくる。
対して、サイジを守るようにルルも巨大な
「サイジくんっ、わたしから離れないでね、ってサイジくん!?」
サイジは無防備なまま、ゆっくりと一歩を踏み出す。
慌てるルルを手で制して、静かに
それだけで通じたのか、ルルも武器を下ろしてくれる。
そして、サイジは静かに一度深呼吸。
不安と心細さと、それを上回る覚悟が胸中に込み上げてきた。
「もうこちらに戦う意思はありません。あと、魔王は、エルギアさんは無事です」
「……おいっ! 誰か、確認してこい!」
一人の騎士が、恐る恐るといった雰囲気でルルの脇を抜けて奥へ。そして、玉座の間でそっと小部屋の様子を伺う。
寒さが身に染みるような沈黙の後、騎士はほっとしたように戻ってくる。
「な、なんかわからんが、エルギア様は無事だ!」
「そ、そうか! なら、あとは」
「ああ! 勇者一行を始末するだけだな!」
当たり前ながら、そう簡単には戦いは終わらない。
戦争とは、始めるのは簡単だ。そして、油断していると勝手に始まってしまう。それなのに、終わるのはいつも血と汗と、そして涙とを強いてくる。
どちらかが、
そうでない終わりには、大変な苦労と犠牲が伴うのだ。
「待ってください。繰り返しますけど、僕たちに戦う意志はないです。もう、戦争は終わりにしたいなって思うんですけど」
「なんだと! アナネム様を悪魔に
そうだそうだと声があがる。
王国の召喚した勇者として、また女神アナネムの親しき友人として、サイジはクリア条件を満たしたと思う。それでも、このゲームをトゥルーエンドで終わらせるにはまだまだこなすべきミッションがあった。
それは、エルギアの地位の回復だ。
そして、
「あ、はい。えと……うーん、それは確かに大事だな。困ったぞ」
「ねね、ルルは頭悪いからよくわかんないんだけど、なにが困ってるの?」
「簡単に言うとね、エルギアさんは悪魔にされてしまったから、また神族に戻りたいんだ」
「ふーん、そうなんだ。いい人だもん、悪魔も神様も関係ないと思うけどなー?」
「そこがまた、難しいところでね。さてと」
周囲を見渡し、殺気に満ちた視線を残さず拾ってゆくサイジ。
敵は皆、
これでは、まとまる話もまとまらない。
「僕から王国に掛け合って、なんとかしてもらおうと思います」
「一介の勇者に、そんなことができるものか!」
「そうだそうだ、そもそもお前たちは異世界人じゃないか!」
そう言われてしまうと、確かにその通りだ。
だが、異世界からの異邦人だからこそ、サイジにはやれることがあると思う。信仰上のしがらみにとらわれることなく、本当にエルギアとアナネムの親子が幸せになれる道を探せる
それと、もう一つ。
どうしても勇者として、筋は通しておきたかった。
「僕が責任を持って、エルギアさんの失地回復を頑張ります。それでも、戦いを望むんだったら――」
ありったけのハッタリを込めて、過去最高の演技力を絞り出す。
腕力や体力といったステータスではなく、自分の精神力に全てを賭ける。
「戦争の継続を望む者がいるならば、その時は……僕たち勇者が相手をするよ」
もともと女顔だと言われることがあるし、サイジは背も低くて華奢で小柄だ。でも、一生懸命凄んでみたら、周囲が息を呑みつつ一歩下がる。
勇者として身につけたスキルなど、一つも使っていない。
こんなことを言えばどうなるかくらい、先読みできている。そして、自分に戦いのステータスが全然足りていないことも見切っていた。
でも、勇者としての立ち位置だけは明言して、平和をこそ一番に考えなければいけない。そして、そうでない者とは
そして、可憐な声が凛として響く。
「はいはい、双方そこまで! 私は王国の第三王女、エルベリールですけど?」
不意に、頭上から声がした。
そして、吹き抜けの天井が大きな音を立てて崩落する。その
ぽっかり空いた穴から、満月が見えた。
それを覆う巨大な影は、例のドラゴンだ。しかも四匹もいる。
なのに、全く気にした様子もなく、エルベが降りてきた。
「ああ、あのドラゴン?
「エルベさん。結構
「あらサイジ、博打だなんて……かかるまで撃ったから、確実にかかったわよ」
「あ、はい」
エルベはどうやら怪我もなく、元気そうだ。
恐らく、一周目の最後の激戦で、彼女自身もステータスが大きく伸びていたのだろう。
はたまた、彼女もまた恋する乙女のなんたるかがスキルとして発動してるのかもしれない。エルバはよいしょ、と穴から降りてきて、居並ぶ男たちをじろりと
「この戦争、勝者はいないわ! まったく、魔王軍のせいで国が荒れて、こっちだって大変なんですからね! ちょっと、わかってるかしら? 侵略者の魔王軍の皆々様?」
流石にお姫様だけあって、威厳がある。それ以上に、本気でエルベは怒っていた。生まれた祖国が滅ぼされかけたのだ、民と国とに責任を持つ王族として当然の憤りだった。
その上で彼女は、腰に手を当て仁王立ちで言い放つ。
「私、王位継承権を捨てて王家を出ます。それで、ここにエルギアの神殿を建てて巫女になったげる! 女神エルギアの神殿よ? どう?」
なんとも突飛な発言だった。
けど、肩越しに振り返るエルベは笑顔だった。
「私がそうしたいのよ、サイジ。だから、たまにはここに遊びに来てね」
「たまにだなんて……うん、必ず会いに来るよ」
「ルルもね。きっと、こうしてエルギアを魔王じゃなく女神として
その時だった。
背後で高らかに笑い声が響き渡った。
『オーッホッホッホ! 最高ですわよー! これでお母様も女神に戻れますわっ!』
振り向くと、聖剣エクスマキナーをずるずる引きずってエルギアがやってきた。アナネムの幻影も一緒だ。あの剣は、選ばれし勇者のサイジしか持てない。だが、その重さを無理矢理に持ってきちゃうあたり、やはり魔王の力は恐ろしい。
そのエルギアが、相変わらずのダウナーな声でぼそぼそと喋る。
「それで、その、みんな……ご苦労さま。もう戦争、やめようと思うのだけど……だ、駄目かしら」
親衛隊の皆もざわざわと騒がしくなる。皆、兜を外せばダークエルフやホムンクルスの青年たちだった。驚きもしてるし、内心ホッとしているような表情の者たちもいる。
そして、次の発言がサイジたちを仰天させるのだった。
「そ、それでね……ええと、サイジくん。……隠しダンジョン、用意しておいたのだけど」
「……は?」
「その、私を倒した勇者用に、凄いダンジョン……このお城の地下に。ええと、私は悪魔という扱いになって、このゲームを作って、そしたら、その、本物の魔王? まつろわぬ古の邪神を掘り起こしちゃって」
その、隠しボスが地下にいるらしい。
ついでに、最高難度の罠だらけなダンジョンに、無数のレアアイテムが眠っているとのことだった。
瞬間、サイジの頭は真っ白になった。
王国の平和、女神の復活、ぶっちゃけどうでもよくなってしまった。
だってサイジはゲーマーだから。
「入り口はどこです? あ、ルル、エルベも。ちょっと回復に一度戻ろうか」
「え、あ、あの、サイジ? ちょっと……」
「いいから行こうよ、エルベちゃんっ! 巫女さんのアルバイト、あとでもいいって!」
次の瞬間には、瞬時に聖剣エクスマキナーが宙を舞ってサイジの元に戻ってくる。
今度こそ、最後の……そして、ようやくなにも気にせず楽しめるゲームの始まりだった。
『オーッホッホッホ! 流石はお母様、ド凄いエクストラなおダンジョンですわー!』
「うい。んじゃ、、ま……サクサクいきますかね!」
サイジたちの本当の冒険が始まる。
後の世に、復活の女神エルギアの神殿と呼ばれることになるこの地には、その地下深くに古き邪神を封じ込めた土地としても有名になる。
その女神エルギアの娘が、救国の乙女として王国に末永く祀られることになるのだが、それはまた別の話なのだった。
ゲーミング聖剣、抜けちゃいました!~悠々自適の異世界スローライフを終えた僕はゲーマーとして魔王を討伐する~ ながやん @nagamono
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