会社員俺、年末のお祭り騒ぎが続けばいいのにと願ってたら、宇宙神が世界を変えてくれた件について

差掛篤

永久に楽しき日々を…

年末


仕事納めも終え、私はだらだらと年越しを待っていた。


年末は正月の用意で忙しい。

だが、どこなく祝日のようなお祭り気分があり好きだ。


店は年末セールだし、かといって、仕事は「どうせ年末だから」とそこまで成果を求められない。


いい雰囲気だ。

これがずっと続けばいいのに。

私は終わらぬ夏休みを夢見る学生のように願っていた。


「どうも、こんにちは!」

突然、私の目の前に青色の光が現れ、銀色のマッチ棒のような細さの者が出現した。


「ギャー」私は悲鳴をあげた。


「驚かないで!私は宇宙人です」

その人物が言った。

確かに、人間にしては細すぎる。

「私はですね、地球と交友を結びたい宇宙人です。今日はあなたの悩みを解決してあげましょう」


「なんだお前は、警察呼ぶぞ!」私は叫ぶ。


「ちょっと失礼」そういうと、宇宙人は指から光を出した。


光に照らされると、私は警察を呼ぶ気がなくなった。

この人は安全で、本当の宇宙人だ。信用できる…。


「よろしいですか?すみませんね、これが手っ取り早いのでね。」宇宙人が言う「私はこの太陽系創造に一枚噛んだ宇宙種族です。いわば、宇宙神ですね。旧支配者…とでもいいましょうか。なんちゃって」


宇宙人は明るい声でペラペラと話す。


「あなたは何をしに?」私が聞いた。


「もちろん、あなたの願いを叶えるためです!」宇宙人は言った「あなたのこれからの人生、ずっと『年末』の雰囲気を過ごせるようにいたしましょう」


「そんなことできるのか?」


「私に不可能はありません。地球の事象を変えるくらい造作もない」宇宙人は誇らしげに言った「それでは行きますよ…」


「ちょっとまった!」

私は叫んだ。「永久に同じ日を過ごすタイムリープとかは嫌だよ」


宇宙人はため息をついた。

「あなたね。私を誰だと思ってるんですか。そんなことしませんよ…ちゃんと暦は変わりますし、日々は流れます」


「そうか…安心したよ」


「どうしますか?あなたが望むように、毎日が年末気分になるのは間違いないです。極度な閑散期、忙しない年末セール。いそいそと年越しを待つ…お祭り気分…悪くないですよ」


私は考えた。

その条件で悪いことはない気がする。

閑散期やお祭り年末をずっと楽しめるのだ。


宇宙人は言った。

「同じような方でね、夏休み、クリスマスの雰囲気をずっと繰り返してほしいと言う人もいますよ」


私は宇宙人にお願いした。

毎日が年末なんて楽しいじゃないか。


「それでは目を閉じて下さい」宇宙人が言った「目を開ければ、世界は変わっています。私がまた地球に来るまで修正はできません。参考までに以前地球に来たのは白亜紀のころですが…」


私は目を開けた。




世界は変わった。

確かに、毎日「年末」がやってきた。


常に商店は年末セールで、皆、年越しのために忙しく奔走する。


そして、仕事は「どうせ年末だから」と閑散期


数週間、数カ月と経ってもその様子だった。



宇宙人は少し事実をいじったらしい。


この世界は皆、いつ来るかは分からないが、間もなく来る

「トシコシ」

というものに備えている…そんな概念に変わっていた。


だから延々と、世界が変わる「トシコシ」の節目のために準備し続けているのだ。


何をするにも「トシコシ」準備が優先されるし、少々成績が悪くても「年末(つまりネンマツ)だからな」と大目に見られる。


私は気に入った。


いつもネンマツだからと、適当に仕事をし、さっさと「トシコシの準備が」と言って家に帰る。

町はネンマツだ、ネンマツだ。と常に浮かれている。


素晴らしい、終わらないお祭りのようだった。




だが、数年後、私は嫌になっていた。


旅行代は高い、スーパーもカニや数の子といった高価な品物が並び、購買欲をあおる。

ちょっとした買い物をするにもコストがかかる。

何をするにも客は多い、年末料金…


それに、皆落ち着きがない。

人は、物心つくと「ネンマツ」「トシコシ」に取りつかれているのだ。


「ネンマツだから」と、不必要なまでの大掃除を毎回やるし、「トシコシ」に備えてしょっちゅうおせちを作っている。


遊びもできない。

彼女ができたって、だいたいは「ネンマツで忙しいもの。大掃除におせちづくりに…遊ぶ暇なんてないわ」とデートにも行けない。


この世界の連中は絶対に到来しない「トシコシ」なるフィナーレのために、永遠にせかせかしてるのだ。



世界観が違う私が来て、合う訳がない。


クリスマスや夏休みもあるが、やはり、この世界の命題である「ネンマツ」「トシコシ」には及ばない。


片手間にケーキをちょろっと食べたり、海に行く程度だ。


この世界は狂ってる。

来もしない「トシコシ」到来に備え、間抜けな信者が必死に「ネンマツ、ネンマツ」と祈っているようだ。

妙な終末思想をもつ、カルト宗教のようだ。


私は気づいた。

夏休みも、クリスマスも、年末、年越しも…


一瞬で終わるからこそ、楽しいのだと。


日々、平凡で代わり映えのない、時に苦しい日常を送るからこそ、一瞬のお祭り騒ぎが楽しいのだ。


私は、「永遠の年末」でせかせかと大掃除や車掃除、おせち作りをしているバカたちを脇見に、飲んだくれていた。


年末なんてクソくらえだ。

私は酔わないと狂ってしまう。

もう、こいつらと一緒にいたくない。

こいつらも、「ネンマツ」「トシコシ」を無視する私なんて相手にしたくないだろう。


私はあのインチキ宇宙神がもう一度来て、世界を元に戻してくれることを祈り続けている。


だが、あの宇宙人は前回白亜紀に来たと言っていた。

1億年ほど前だ。


私が生きている間は厳しいだろう。


神様が定めた永遠の年末の中、私は酔いつぶれながら年越しを夢見ている。


新しい年を迎え、気持ちを切り替えて始まるあの素敵な1年を…

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