呪われた橋

秋色

呪われた橋を歩くと……

 その日、呪われた橋を行くしかなかった。


 大人達は、その橋を渡った所にある地域は危ないから行くなとよく言った。確かに少し寂れた感じだけど、何が危ないのかよく分からなかった。怖い人が多いからって言うけど、私達の町と同じ様におぱさんが普通に通りで話してたり、小さな子どもが遊んでるだけ。


 確かに小さな橋は欄干が低くて危険だ。川のすぐ上に橋があるから流れを見ながら歩くと怖い。それにここには因縁がある。


 十才の時に、友達と近道して帰ろうとして、少女漫画雑誌の付録のシールを落としてしまった。可愛いペアルックの男の子と女の子の絵は、あっという間に川の中に見えなくなった。これも呪いかな。


 でも今日は私立の高校入試の日。なのに遅刻しそうなんだから、近道するにはこの橋を渡るしかない。そしてその先にある駅から快速電車に乗るしか。


 なるべく流れを見ずに渡った。足に変な力が入り機械仕掛けの人形みたいな歩き方になったけど、渡り終わってほっとする。あとは駅を目指すだけ。


 道は子どもの頃と随分変わっていた。しばらく歩いても、駅前に近付いている感じがしない。迷ってしまったんだ。どうしよう。

 その時一軒の家の前で、私と同じ年頃の背の高い少年が自転車に乗ろうとしているのに気が付いた。「あの、かんだ駅に行きたいんだけど。どう行けばいいですか?」相手が高校生の可能性を考え、丁寧語を使った。


「かんだ駅なら反対側やけど」愛想のない答え。


 私は反対方向に向かって、てくてく歩いていたのだった。涙が勝手に溢れた。

相手の無表情な細い目に心配そうな色が灯った。


「試験なん? 駅に行けばいいん? 送っちゃる。後ろに乗って」と自転車を指した。天の助けだと思った。少年は猛スピードで自転車を走らせて、普通だったらクラクラしそうな速さだったけど、その時の私は全く気にならなかった。試験でなければピクニックでもしたいような野原を横に通り過ぎる。

 駅に着くと、ぶっきら棒に反対方向に自転車を走らせていく後ろ姿。学校に行く所だったのに私を送ってくれたのだと今更気が付いた。



「また、その話聞いてる。お姉ちゃん、古い話、好きだね」


「レトロが好きなの」


 そう、それはパパとママの出会いの話。呪いじゃなくてノロケの。今はその橋はなくなって、新しく立派な橋が出来て、皆が行き来している。そして私達には、もう彼処あそこへ行っては行けないなんて言われる場所はどこにもない。



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呪われた橋 秋色 @autumn-hue

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