生温かい飴から始まる?ポーカーフェイスとの恋の予感

細波ゆらり

生温かい飴から始まる?ポーカーフェイスとの恋の予感

「よっ! 山口さん、吉田さん!」

 昼休みに歯磨きに行こうと、親友の山口愛海と廊下を歩いていると、ラグビー部の平田に挨拶される。


 平田は、満面の笑みを浮かべているが、私と愛海の顔は白けたまま。この男は受験まであと3か月だと言うのに、女の尻を追いかける冴えないヤツだ。進路は決まらないが、女の好みははっきり決まっているようで、愛海と私の周りをウロウロする。勉強の気晴らしだとしたら、傍迷惑だ。


 愛海と私はよく似ている。色白、やや茶色い髪、目と目が少し離れていて、性格はともかく柔らかい印象を与える顔立ち。だから、二人まとめて声を掛けられる。しかし、併願であっても、第一志望は愛海、第二志望が私と序列はついている。平田のくせに生意気だ。


「またね。」

 私と同じく平田に興味のない愛海は、会話が始まる前に終了させる。既に来た道を引き返そうと一歩後ろに下がっている。

 この男、洗面室に向かう女子を引き留めるあたり、そもそもセンスがない。にへらにへらと媚びる表情もいただけない。


「あ、ちょっと待って! コレ…」

 平田のポケットから、個装されたのど飴が二つ出てくる。

 私と愛海は顔を見合わせる。明らかに、ポケットの中で縒れた包装、しかも生温かそうだ。


「大丈夫!気持ちだけ貰うわ。」

 今度は私が塩対応する。


「コレ、喉に効くハチミツらしいから…」

 平田は引かない。飴を乗せた手のひらを差し出してくる。


 愛海は、私のブレザーを軽くつまんで合図すると、踵を返す。私もそれに倣いたいが、平田の手がどんどん迫ってくる。


 あとで誰かに横流しすればいいか…と、腹を括る。

 手を出そうとしたそのとき、横を通り過ぎる誰かが、私の代わりに二つの飴を攫って行った。


「ありがと。貰うな。」


 それは菅野晴哲だった。平田はもごもご言いながら立ち去る。スクールカーストの勝利だ。バスケ部主将、高身長、爽やかイケメンなのに硬派でポーカーフェイス。勉強もできたらしく都内の私大の推薦が決まったと噂だ。平田が敵うところは一つもない。


「嫌なら断れな。」

 菅野は、私の肩をポンと叩く。彼とは、同じ中学だが、殆ど会話したことがない。


「先月のプレどうだった?」

 菅野が言う。


 私の志望校の模試のことだろう。なぜ、受けることを知っている?私が曖昧に笑って頷くと、満足そうに頷いて去っていった。笑顔?

 私の志望校への入学が既に決まっている人に気にされたくはないが、じんわりと胸が温かくなるのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生温かい飴から始まる?ポーカーフェイスとの恋の予感 細波ゆらり @yurarisazanami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ