第6話 オレンジって名前の手榴弾、あるよね

 城に戻った俺は、文官たちに成果を報告しながら細かい指示を出していた。


「とりあえず今日のところはこんなところかな。じゃあ俺は各地を回ってイナゴを集めてからアリス、他の漁港や漁村を回るのについてきてくれるか? 姫王のアリスがいたほうが話が早く進む」


「え、ええいいわよ。でも、他の漁港もお願い聞いてくれるかしら?」

「それは大丈夫だろ。お前、愛されているし」

「え?」


 意外そうな顔をするアリスに、俺は頬を緩めて言ってやる。


「いくら人口10万人の小国でも、国民一人一人が姫王の顔を知っている。お前、民との交流してんだろ?」

「もちろん。イベントに顔を出したり、各地の巡礼も大事な公務だもの」


 大きな胸を張りながら、ちょっと得意げだ。かわいい。


「それに、ターレイに対する態度もだけど、国民を威圧することのない態度は、威厳は損なうけど、俺はそっちのほうが好きだよ。王様は国の象徴でリーダーだけど支配者じゃない。国民は奴隷じゃない。本来、王様と国民の間に人としての上下関係はない。それは、ターレイもわかっているんだ」


 意味が分かっていないのか、アリスは幼い表情できょとんとした。


「最初のターレイは態度が悪すぎた。そのくせ、すぐに上機嫌で不自然に協力的だった。たぶんあいつ、最初から俺らのお願いを聞くつもりだったぜ。けど、一切の抵抗をせずに唯々諾々と聞いたら奴隷になる。漁港を守るために、王様相手に対等な関係を作るために、あえて反発して見せたんだよ。でなけりゃ、国民から愛されているお前をいじめるようなマネしないだろ」

「そ、そうかな? へへ」


 照れ笑いながら、アリスは桜色の髪を手遊びした。


 ――かわいい。


 ピンク髪の2・5次元巨乳美少女。

 はっきり言って、アリスの外見は俺のストライクゾーンど真ん中だ。


 加えて、王様なのに国民を愛し国民から愛されていて、そのことを口に出されると照れてしまう。


 今日初めて会ったばかりだけれど、けっこうアリスのことが好きになっている俺がいた。


 ――正直、無理やりな異世界召喚だったけどこの子のために頑張るのもありだな。


「さて、これで数日後には大量のイナゴスナックと春野菜を戦場に届けられるわけだけど、武器は外国から買い付けるのに半月はかかるだろう。でも、戦場は一分一秒を争う場だ。救援物資が昨日届いていれば助かった命もあるかもしれない」


 照れ笑いから一転、アリスの顔色が変わった。


「そうよね。ハルト、すぐになんとかならない?」

「やろうと思えば武器もすぐに用意できる」

「ん? ならなんで外国から買い付けたの?」

「あれはブランデーを広めるのが目的だからな。でも、ただ剣や槍を送って勝てるなら苦労はない」

「じゃあどうするの?」

「そうだな」


 ここで現代知識無双で火縄銃を生成して、というのは悪手だ。

 火縄銃は調練が早いと言っても一日二日じゃ扱えない。

 また、銃の仕組みと火薬を理解してもらわないと、使って貰えない可能性もある。

 兵士が使ってくれて、調練がいらなくて、戦況を一日でひっくり返せて、俺のスキルで作れる武器。


 ――地雷は味方が踏んだ時に困るよなぁ。


 ストレージから生成可能武器の一覧を眺めて、俺はある武器に目をつけた。


「なぁアリス、地図に魔法学校ってあるけど、この世界の魔法ってどんなのだ?」


「そうね。えーっと教科書の受け売りだけど、魔法は魂が生み出すエネルギーである魔力で超自然的な現象を起こす技術のことよ。魔力を炎や雷撃に変換して敵を攻撃する攻撃魔法、ケガを治癒する回復魔法、魔力の障壁を作って攻撃を防ぐ防御魔法、他にも遠くの人と通信できる通信魔法とか空を飛ぶ飛行魔法とか色々あるけど、これらは特に分類はされていないわね」


「魔法を使える人ってどれぐらいいるんだ?」


「かなり少ないわよ。魔法使いはどこの国でも貴重な人材で、戦場に投入されるほどの使い手となるとさらに貴重だわ」


「ようするに、兵士のほとんどは使えないと思っていいんだな?」

「そうね。各部隊に一人だけとか、もしくは魔法使いだけを集めた100規模の魔法部隊を持つ国もあるみたいだけど」


 アリスの話を聞いて安心した。


 どうやら、この世界はそこらじゅうに魔法使いが溢れかえり、魔法の一撃で地形を変えるような、少年バトル漫画みたいな世界ではないらしい。


 なら、これが使える。


「火薬ってわかるか?」

「なにそれ?」

「火を付けたら爆発する薬なんだけど」

「そんな危険なもの聞いたこと、いや、魔石が暴走して爆発した話なら、でも薬じゃないか」

「それを作って戦場に送る。幸い、材料ならあるしな」


 地図画面を開くと、火山をタップした。


「火薬の材料は木炭1割、硫黄2割、硝石7割。木炭は木から作れる。硫黄は火山から採れる」


 採掘画面で硫黄をタップすると、一日に採取できる硫黄の最大量が表示された。


 続けて、硝石鉱床をタップすると、同じく一日で採取できる硝石の最大量が表示された。


 硫黄をある程度採取すると、ストレージ内の硫黄が増える代わりに、硝石の最大採取量が減った。


 地下資源は鉱夫に掘らせなくても、画面操作だけで採取できるいかにもゲーム的なスキルだけど、一日に採掘できる総量は決まっているらしい。


 俺は、ソレの材料を必要量に応じて採掘してから、ストレージ内で大量生産した。

 そのひとつを、あえて取り出してアリスにかざして見せた。


「なにこの黒くて丸いの?」

「この中に爆発魔法が封印されているのさ」


 オレンジ大のソレの横で、不敵に笑ってやった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る