●世界ランキング1位のゲーマー、敗北国家の追放姫騎士を神プレイで勝ち確させる

鏡銀鉢

第1話 ヴァルキリー王国に召喚されました

 石柱に支えられた石造りの広間にレッドカーペット。

 ドレスの上から軽装鎧を着た2・5次元美女美少女たち。

 魔法陣の光輝く床。


 これが新作ソシャゲのVRPV映像なら良かったのだが、俺はあの言葉を口にせざるを得なかった。


「これっていわゆる異世界召喚ってやつか?」


 俺を取り囲む絶世の美女美少女たちが歓喜の声をあげた。

 一方で、俺は不動の心で観察の一手だった。

 昔から冷めていると言われる性格もある。


 加えて、昨今は異世界アニメラッシュということもあり、俺も異世界転移・転生・召喚モノは知っている。


 だからこそ、バッドパターンの知っている。

 驚くよりも、考えることを優先してしまう。


 ――俺にチートがなくて捨てられるパターンやこいつらがクズで俺を使い潰すパターンだけはナシだな。だけど。


 王様への謁見の間然とした部屋に居並ぶ女性たちを眺めると、やや上機嫌になる。

 何故か、広間には女子しかいなかった。


 地球のどの人種とも違う、tiktokの加工や日本ゲームキャラ、あるいは、トップコスプレイヤーみたいな、2・5次元みたいな顔だ。


 スタイルも、細身で手足が長くて巨乳率が8割を超えている気がする。


 ――これでチーレムルートなら最高なんだけどな。


 ゲーマーであり年齢イコール彼女いない歴の俺として、なかなかテンションの上がる状況ではある。


 ただし、そのそぶりはおくびにも出さない。


 女性陣の歓喜の声を黙って聞きながら、心の中で強く【ステータス】【プロパティ】【システム】【スキル】と念じる。

 そして、納得すぎるチートスキルを理解した。


「貴方が救世主ね!」


 はじけるような笑顔で歩み寄ってきたのは、桜色のドレスの上から洗練されたデザインの瀟洒な白銀の軽装鎧を着たとびきりの美少女だった。


 ドレスと同じ桜色のロングヘアーをかきあげてから、彼女は右手を差し出して握手を求めてきた。


「アタシはアリス。このヴァルキリー国の姫王よ」


 ――ヴァルキリーって、北欧神話の女だけの戦闘天使的なもんだよな?


 だから女子しかいないのかと納得しながら、じゃあどうやって子供を作っているんだろうとか、色々聞きたいことはあるが飲み込んだ。


 今は、俺の現状を把握したい。

 ゲーム的な外見が親しみやすくて、俺は初対面の彼女の手を握りながら滔々と答えた。


「日本から召喚された学生のハルト、18歳だ」


 口にした名前は本名ではなく、オンラインゲーム上でのハンドルネームだった。


 ファンタジーな世界なら、本名を知られることで魔術的な不利益を被るかもしれないし、俺にとっては本名以上に誇るべき本名なので違和感もない。むしろ、ハルトに改名したいところだ。


「特技は経営・政治・戦争・都市開発シミュレーションゲームで世界ランキング一位だ」


 【ブルーライン】

 【戦国の野望】

 【ワールドウォーズマン】

 【ライズオブカントリー】

 【かいぶつの森】

 【モルモットの里】

 【戦国真の戦】

 【トラの如く】

 【ダムネーションズ】


 どれも自由度やテーマの違うシミュレーションゲームだが、俺はこれら全てで世界ランキング一位を取っている。


 親の話では、2歳の頃からすでに2001年発売の【かいぶつの森】をプレイしていたらしい。自分でも、これは性分だと思っている。


「シミュレーションゲーム、って何?」


 アリスが不安そうなきょとん顔になった。

 周囲の女性陣も、不穏なざわめきに包まれる。


「わかりやすくという超がつくほど複雑でリアリティ溢れるボードゲームだな。兵棋(軍隊で使用されるリアル寄りの将棋)とかこの世界にないのか?」


 俺の問いかけに、アリスは青ざめた。


「嘘、まさかアナタ、実戦経験とか、ない?」

「喧嘩もしたことねぇよ」


 余裕の態度でそう返してやった。

 同時に、周囲の女性陣が頭を抱え始めた。


「ボードゲームの世界チャンピオンを召喚してどうするのだ!?」

「帝国軍が防衛線を突破するまでもう何日もかからんぞ!」

「救世主召喚には我らを救うのに最適の人材が召喚されるのではないのか!?」


 恐慌状態の家臣たちに、アリスは表情を引き締めた。


「ま、待ってみんな! もしかしたら他に凄い能力を持っているかもしれないでしょ! だから一度落ち着いて!」

「いや、俺ができるのはシミュレーションゲームスキルだけだ」


 アリスがガビーンと凍り付いて、女性陣の混乱に拍車がかかった。もう、広間は大パニック状態だ。

 俺はひとりで落ち着き払いながら混乱を鑑賞していた。


 ――さて、そろそろ意地悪するのやめるか。


 俺は【シミュレーションゲームスキル】を可視モードにして発動した。


「よっと」


 刹那、俺とアリスの隣に、両手いっぱいに広げたぐらいの大きさのウィンドウが開いた。


『ッ!?』


 アリスたちが絶句する中、ウィンドウにはこの国の立体地図が3Dで表示された。


「海も山も森もある。いい国だな。農地に適しているのはこの平原と、この森は開拓が必要か。地下資源の位置、うん、未開発で手つかずのが多い。国土は日本よりちょっと広い45万キロ平方メートルで人口は10万4312人。農民が5万人で漁師が……」


 立体地図を指でタップして土地の詳細データ、各種ステータスバーから国全体の情報を次々読み上げていく俺と映像に、アリスたちは唖然として声も出ない様子だった。


「他国の土地データは大半が非表示だけど、地形は見られるのか。戦場は国境線の平原でもう国内に入られているな。味方の戦闘兵力は1023、敵は10413人。十倍もいるのか」


「な……なんなのよこれぇええええええええええええええ!?」


 素っ頓狂を飛び越えて絶叫するアリスがまくしたててくる。

「何よこのバカみたいに詳細過ぎる地図は!? 立体だし!?」


 俺は少し口角を上げて言ってやる。

「地球のシミュレーションゲーム、ナメるなよ」


 誰かが言った。所詮はゲーム、所詮はシミュレーション、所詮はお遊びと。

 逆だ。

 ゲームとは現実以上に理不尽で、無理ゲーで、制約が多い。


 ただ一つの違いはやり直せること。


 無限のトライ&エラーという経験値に裏打ちされ研ぎ澄まされたゲーム感はやがて現実を凌駕する。

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本作を読んで下さりありがとうございます。

200PVで第二話更新です。

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